第23章 笑いのツボは人それぞれ。
神威を止めたのは葵咲だ。神威は急に抱きつかれた事により、ピタリと振り上げた右手を止める。葵咲は抱きついたまま、言葉を紡いだ。
葵咲「ダメだよ!殺しちゃ…!相手は戦意喪失してるから。もう戦う必要なんてない。」
(阿伏兎:あの女…死んだな。)
鳳仙との死闘を繰り広げた際、一人の部下の命を奪った神威。闘いの最中に割り込む者は容赦しない。その現実を知っている阿伏兎は、心の中で葵咲の死を予感したのだった。
神威「・・・・・。」
興が削がれた神威は、冷たい目を浮かべる。
そして葵咲の息の根を止めようと振り返った。
葵咲「それにやっぱり殺しは良くないよ!」
神威「・・・・・。」
振り返った神威は思わず固まる。
葵咲の姿を目の当たりにし、突如吹き出したのだった。
神威「…ブッ。アハハハハ!ちょ、血みどろ…!」
葵咲「えっ。」
一体何がそんなにツボにハマったのか。状況を把握できない葵咲は、神威の突然の爆笑に目を瞬かせる。
神威「説得力ゼロなんだけど!アンタが殺人鬼…!!」
言われて自分の姿に目をやる葵咲。『殺しは良くない』といった自分の姿は返り血を存分に浴びたただの殺人鬼だったのだ。
神威よりも血を浴びている。折角の純白のウエディングドレスはほとんど真っ赤に染まり、その端麗な顔にも沢山の血が付いていた。髪の毛からは浴びた返り血が滴り落ちる。葵咲はそんな自分の姿を見て慌てて取り繕う。
葵咲「や!これは、まぁ…職業的な問題でですね!」
神威「アハハハハ!」
なおも大爆笑する神威の姿を見て、葵咲も笑顔を零した。