第20章 下心は知らないうちに懐に忍び込む。
土方が葵咲のもとへと戻る頃、葵咲はハリネズミやハリセンボンは諦めた様子で、土方が戻るのを屋台の傍に立って待っていた。
土方が葵咲のもとから離れて暫く時間が経つ。その事に何かを察した葵咲は、土方が戻ってきた際に、心配そうな顔を向けた。
土方は流石に感付かれたか、そう思って葵咲が問いただしてきたらどう交わそうかと頭を巡らせた。だが、次の瞬間、口を開いた葵咲から出た言葉は、土方の予想していないものだった。
葵咲「遅かったね。お腹大丈夫?」
土方「…ウンコじゃねぇよ。」
土方は葵咲が天然であることを思い出した。そういえばそうだ。初会から自分の予想が当たることはなかったのだ。全く別の心配、しかもあらぬ嫌疑を掛けられた事に、少し肩を落として否定したのだった。
その否定を聞いてか聞かないでか、葵咲は話を続けた。
葵咲「じゃあ何か食べにでも行こっかー。あっちにカレーあったけどそれはやめた方がいいよね?刺激物はお腹に良くないし。」
土方「だからウンコじゃねぇっつってんだろがァァァ!」
二人が再び歩き出したその時、土方の無線機から近藤の声が聞こえてきた。
近藤「トシ!」
土方「なんだ、近藤さん、何か分かったのか?」
土方は葵咲の少し後ろを歩き、葵咲には分からないように小声で近藤に応答した。高橋一派の残党について何か情報が分かったのだろうか、そう思って真剣な面持ちで問いかける土方。だが、話の内容は全く別のものだった。
近藤「今 葵咲の右手が空いてる。さりげなく手を繋げ!」
土方「ハァァ!?てめっ!何言ってやがんだ!!」
近藤「そんな距離じゃ不自然だろうが!もっと自然に恋人らしくしろ!!」
土方「らしくしろって恋人じゃねぇしィィィ!!」
これには思わず立ち止まって、無線に向かって叫ぶ土方。今度は山崎が話しかけてきた。
山崎「副長、これはあくまで囮捜査ですよ!恋人同士で歩いてたら油断してると思って奴らも狙いやすいはずです!」
土方「その前にセクハラになんだろうが!!捕まえる前にこっちが捕まるわ!」
勿論、山崎が説得に出たところで土方はきかない。仕方なく近藤は自らが折れ、提案を訂正した。