第18章 さりげない気遣いの出来る男、それがモテる男。
土方が浴衣に着替えて少ししてから、葵咲が着付けを終えて出て来た。
葵咲「お、お待たせしました。なんかスタイリングもされて…時間かかっちゃって。」
そう、先程土方が女性店員に頼んだのは、浴衣を着付けしてもらい、そのままスタイリングもしてもらう事。
葵咲「変じゃないかな?」
土方「・・・・・。」
髪は少し巻いてから右耳あたりでまとめ、可愛らしい花飾りを左耳の上あたりにつけている。化粧も店側が気を利かせて、浴衣に似合う色合いにし直している。プロによる化粧、普段とは違ったアイシャドーや口紅、頬紅の雰囲気の違いもあってか、想像以上に見違えるように綺麗になった葵咲。その浴衣姿に土方は思わず見惚れてしまったのだった。
土方が何も言わずにただじっと葵咲を見つめている傍で、先程の女性店員が葵咲を褒める。
「とんでもない!凄くお綺麗ですよ!ねぇ!彼氏さんも何か言ってあげて下さい!」
葵咲「えっ!?いや!私は彼女とかそんなんじゃなくて!そんな、申し訳ない!!」
二人のそんな会話が全く耳に届いていない土方。
そんな呆然としている土方の様子に気付いた女性店員が土方へと声をかける。
「…もしもし?」
土方「…えっ?あ、ああ。いいんじゃねぇか?」
店員に「もしもし」と肩を叩かれて初めて我に返った土方。世辞ではないだけに、余計に褒め言葉が照れくさく、どもってしまった。
葵咲「ホント?なんか間があったけど…。」
土方「なんでお前はいちいちマイナス思考なんだよ。」
またもやマイナス思考となり、軽く落ち込む葵咲。そんな葵咲に土方はツッコミ、そして葵咲に店を出るよう、促した。
土方「ほら、行くぞ。」
「有難うございました。」
店員は土方に深々と頭を下げる。その様子と土方とを交互に見ながら葵咲は言った。
葵咲「えっ?あの、お会計は?」
土方「・・・・・。」
葵咲の問いかけには応えず、腕組みして前を歩き出す土方。その後を少し小走りに葵咲は追いかけた。
葵咲「もしかして土方さんがお会計済ませたの?いくらだった?私、払うから。」
土方「いいよ別に。大した額じゃねぇし。つーか俺が勝手に決めちまったしな。」
葵咲「そんなの悪いよ!」