第18章 さりげない気遣いの出来る男、それがモテる男。
少しの時間を置いて、パステルピンクの浴衣を試着した葵咲が、試着室から出てきた。
葵咲「あの、土方さん。」
特に何も考えずに店内の椅子に座ってぼーっと下を向いていた土方だったのだが、声を掛けられて葵咲の方へと目を向けた。
土方「!」
葵咲「コレやっぱり私には可愛すぎるんじゃないかな?」
少し困ったような表情で言う葵咲だったが、店員は即座にそれを否定した。
「そんな事ないですよ!よくお似合いです~!」
土方「ああ。いいんじゃねぇか?」
それは世辞ではなく、土方の本心からの言葉だった。
普段は地味な渋い緑色の着物を着ている葵咲なので、可愛らしいデザインの浴衣姿が想像出来ていなかった土方だったが、その姿を目の当たりにして想像以上にそういう浴衣が似合う事を実感した。普段もこんな可愛らしい色の着物を着れば良いのに、とさえ思ってしまう程だった。
葵咲「そうかなー。」
なおもしかめっ面で考え込む葵咲には構わず、土方は店員に言った。
土方「じゃあそれそのまま着付けしてやって。」
「かしこまりました。」
葵咲を再び試着室へと案内しようとする店員だったが、それを呼び止めるように土方が更に言葉を付け加えた。
土方「ああ、それから…。」
その先の言葉は店員にだけ聞こえる程度の声量で、少し離れたところにいた葵咲には、その話の内容は聞こえなかった。
「…はい、分かりました。」
葵咲「?」
葵咲がきょとんとして立っていると、店員は土方のもとから葵咲の方へと歩み寄り、今度は試着室ではなく、店の奥にある小部屋へと案内した。
「さぁさ、こちらに。」
葵咲「え?あの、ちょっと?」
葵咲はわけが分からないまま、店員に促されるままに奥の部屋へと連れて行かれた。
そして土方も折角の縁日ということで、自分の浴衣を探す事にした。土方の選んだ浴衣は薄いグレーの浴衣。葵咲が着付けしている間に、土方も購入した浴衣へと着替えたのだった。