第18章 さりげない気遣いの出来る男、それがモテる男。
翌日の正午過ぎ頃、土方は私服姿で屯所の入口のところで葵咲を待っていた。土方が入口に来て五分もしないうちに葵咲が訪れた。
そして二人は歩き出し、浴衣の売っている商店街の方へと足を向けた。
呉服屋に入った二人は、女性店員に店内を案内された。
「どうぞ、ゆっくり見て行って下さいな。」
葵咲「へぇ~沢山ある!どれにしようか迷うな~。ねぇねぇ土方さん、どれがいいかな?」
土方「別にどれでもお前の好きなもん選びゃいいだろ。」
そんな土方の返答を聞いているようで聞いていない葵咲。土方に声は掛けたものの、お構いなしに自分の好みの浴衣を手に取って見る。
葵咲「これがいいかな~。あっ、でもこっちもいいな~。」
土方「・・・・・。」
普段は仕事に専念し、己の欲をあまり表に出さない葵咲。だが、この時楽しそうに浴衣を選ぶ姿を見て、葵咲も年頃の娘なんだな、などと土方は思った。
そんな葵咲の様子を、近からず遠からずの距離で見ていた土方に、この店の主人と思われる一人の小さな老人が話しかけてきた。
「お兄さん、ひょっとして婚約浴衣をお探しですかな?」
土方「婚約浴衣って何だよ、聞いた事ねーよ。」
この老人について、知っている人は知っているだろう。以前、銀時とたまが休日を過ごした際に“婚約ネジ”を勧めてきた老人だ。
勿論、そんな事は露ほども知らない土方は、まさか銀時と全く同じツッコミをしてしまっている事など知る由もない。
老人は土方のツッコミは無視し、葵咲の方へと目を向ける。そして葵咲が手に取っていた浴衣を見て言った。
「その浴衣に目をつけるとは、お嬢さんお目が高い。それはいわくつきでね。実はその浴衣は、かの紫式部が源氏物語を書いた時に着ていた着物を作ったおっさんの母親が着ていた浴衣を作ったおっさんの女房の姉が着ていた浴衣の糸と同じ糸を使って作った浴衣なんだよ。」
土方「限りなくどーでもいい浴衣じゃねーかァァァァァ!!」
こちらの発言にもまた、銀時と全く同じツッコミをしてしまった土方だった。