第18章 さりげない気遣いの出来る男、それがモテる男。
近藤の部屋を出た土方は、その足でそのまま葵咲のいる離れへと訪れた。
土方は中にいる葵咲に声をかける。そして外から声を掛けられた葵咲は、どうぞと促し、土方を部屋へと招き入れた。
土方「おい、市村。お前明日休みだったな。」
葵咲「ええ。何か急なお仕事でしたらそっち優先しますけど。」
土方「いや、そうじゃねぇ。」
葵咲のこの返答は土方の予想の範疇ではあったのだが、その返答を否定した後、どう話を切り出そうかと悩み、口ごもっているうちに、少しの沈黙が流れた。葵咲は何も口を挟まず、ただきょとんとした表情で土方を見つめていた。
そして土方は頭を掻きながら少し照れたような表情で言った。
土方「…俺も明日休みになったんだが、気晴らしにどっか行くか?」
葵咲「土方さんとお出掛けですか?」
予想だにしていなかった誘いに、葵咲は少し目を見開いて問い返した。土方は更に照れたように頬を赤らめながら言った。
土方「いっ、嫌なら別に俺に付き合う必要ねぇけど!」
葵咲「いえ、行きたいです。」
内心、断られる事も覚悟していた土方だったのだが、笑顔で承諾してくれた葵咲に対し、少し胸の鼓動が高鳴ったのだった。
そして土方は心を落ち着かせ、葵咲に希望を訊いた。
土方「何処か行きたい場所とかはあるか?」
葵咲「う~ん、特に…。」
土方「・・・・・。」
勿論、これも土方の想定内ではあったが、あまりの張り合いのなさに、少しため息をついた。だが、自分もこれといってしたい事、行きたい場所等は思いつかない。結局、近藤の提案に乗るしかなかった。
土方「明日、水無月神社で縁日があるらしいんだが、それにでも行ってみるか?」
葵咲「!」
“縁日”と聞いて、葵咲は目を丸くした。そして、下に目線を落として言葉を発した。
葵咲「縁日…かぁ・・・・・。」
普段なら喜ぶであろう提案を、少し思い悩んでいるようにも見える葵咲。