第17章 賃金の発生する仕事には必ず契約書を。
笑顔で答える葵咲からは目を逸らし、煙草の煙を吐き出しながら土方は言った。
土方「それは結果論だ。俺はお前を護る事よりも敵を殲滅させることを優先した。結果、たまたまお前のところに敵があんまり行かなかっただけだ。」
葵咲「それならむしろ私は嬉しいよ。私の事、私の力を、信じて貰えたって事でしょう。」
思わぬ葵咲の答えに、土方は照れたように顔を赤くしながら、今度は葵咲を見て言った。
土方「!? ばっ、何言って…!!」
葵咲「背中を預けて貰えたって事でしょう?」
土方「…怖いとは思わなかったのか?人斬りまくって返り血を浴びた俺を見て。」
照れた顔を改め、真剣な眼差しで言う土方に対して、葵咲も真剣な表情で、でも微笑も交えながら答えた。
葵咲「・・・・・。それでも…理由は変わらない。そんな土方さんがいたから、今私はここにいる。ちゃんと生きてる、こうして話せてる。土方さんがいなかったら、私は…ここにはいなかったかもしれない。」
土方「・・・・・。」
土方は真剣に語る葵咲から目を離せずにいた。そして葵咲は目を瞑り、微笑から少し寂しそうな表情に変えて続けた。
葵咲「もう…目を背ける事はしたくないから。しっかり前を見ないと…目の前にある真実を見抜けないと…また後悔してしまう…。」
土方「?」
葵咲「だから私は…もう逃げないって決めたの。」
土方「お前…。」
葵咲の言葉は土方に向けて言った言葉というよりは、自らの過去に向けて言った言葉といった方が正しいかもしれない。そんな心情を読み取った土方は、それ以上は何も言わずに葵咲を見つめた。