第17章 賃金の発生する仕事には必ず契約書を。
そして少ししてから葵咲は顔を上げ、今度はちゃんと土方に向かって言った。
葵咲「さぁ、屯所に戻りましょう。報告書書かないと。」
土方「・・・・・。」
ビルの出口へと向かって歩き出す葵咲の背中を見つめながら、土方は小さく呟くように言った。
土方「ありがとな。」
自分の事を怖がらずに真っ向から受け止めてくれる葵咲に向けて、心の底から出たお礼の言葉だった。だが、あまりの小声にその言葉ははっきりと葵咲には届いておらず、葵咲は振り返って土方に尋ねた。
葵咲「? 何か言いました?」
土方「別に何も言ってねぇよ!」
そう言って土方は葵咲を追い抜き、足早にビルの入口へと向かおうとする。土方は少し足を進めたところで振り返り、葵咲に言った。
土方「おら、さっさと行くぞ!」
葵咲「?はい。」
土方の心情は読み取れなかった葵咲だが、笑顔を向けて返答し、土方の後を追いかけた。
それから数分後、ビルの入口には子供を親元へと送り届けて事件現場へと戻ってきた銀時の姿があった。
攘夷浪士の逮捕も無事終了し、真選組は全員立ち去った後で、その場は閑散としていた。野次馬の姿すらない。
現場に一人取り残される銀時に向けるかのように、カラスの鳴き声があがった。
銀時「…え?何?俺の出番これで終わり?なんか今回の俺の扱い…酷くね?」
そんな銀時の存在など忘れてしまっていた葵咲は、当然の事ながら、後日300円を支払うこともなく、事件は終結を迎えたのだった。