第17章 賃金の発生する仕事には必ず契約書を。
葵咲もその後を追おうと足を踏み出した時、土方が煙草に火を点けながら今度は葵咲に声を掛けた。
土方「流石は名門武家の市村って事か。その怪我でなかなかの好成績だ。」
土方の声掛けに足を止め、振り返って葵咲は答えた。
葵咲「…私に剣術を教えてくれたのは…市村の人間じゃないですよ。」
土方「そう、なのか?」
予想していなかった葵咲の返答に、土方は面食らったような表情で葵咲に目を向ける。
そんな土方からは目を背けて、葵咲は言った。
葵咲「市村の人間は…私には無関心でしたから。」
土方「・・・・・。」
とても寂しそうな表情で言う葵咲に、何か複雑な事情がある事を察した土方は、何も言えずに言葉を詰まらせてしまった。
そして話題を逸らすように言った。
土方「腕は、大丈夫か?」
葵咲「え?ああ、ええ。大丈夫です。」
そんな話題に切り替えられると思っていなかった葵咲は少し驚きながらも、笑顔を取り戻して答えた。
そして少し間を置いてから、土方が言った。
土方「お前は…俺の事何とも思わなかったのか?」
葵咲「?」
土方「お前をほったらかして刀振ってたんだぞ。…最低な上司だとは思わなかったのか?」
葵咲「…何言ってるんです、土方さんは私を護ろうとしてくれたじゃないですか。」
始めは土方の話す言葉の意図が掴めずにきょとんとしていた葵咲だったが、話していくうちに土方の言わんとしていることが分かり、土方に微笑を向けながら言ったのだった。その表情に少し驚きの表情を見せる土方。土方が何かを言うよりも先に、葵咲が言葉を続けた。
葵咲「怪我した私を護る為に、私になるべく敵が近付かないようにする為に、敵を倒してくれていたんでしょう?自分を護ろうとしてくれた人を最低だなんて思ったりしないです。」