第15章 男は女に転がされるぐらいがちょうど良い。
二人の解説を黙って聞いていた山崎だが、総悟の言っている意味が分からず、思わず問い返した。それに対して、近藤が笑いながら山崎に目をやった。
近藤「ザキはまだまだだな。気が付かなかったか?葵咲はあの場所からほとんど動いとらんかったよ。」
山崎「そうなんですか!?」
総悟「なるべく動かず体力は温存。動きに全く無駄がねぇ。それに、まるで柳のような動きだったぜィ。力任せに突っ込んでもその力は全部別の方向へと受け流されるだけでさァ。」
葵咲の攻撃の受け流し戦法は、ただ単に自らへの攻撃を避けるだけでなく、相手を大きく動かせる役割も果たしていたようだ。
試合中に、葵咲が漏らした、『そんなに動いたんですか?』という台詞に、土方は自らが葵咲の戦法によって踊らされている事に気付いたのだ。
そして土方は葵咲に攻撃を仕掛けるのではなく、受け流される事を阻止しようと、フェイントをかけて葵咲の籠手を狙ったのだ。
山崎「流石は名門、市村家の人間という事ですか。『市村』は攘夷戦争くらいまでは、あの柳生家と並ぶ程の名家だったそうですからね。」
先日の騒動で葵咲の身元が明らかになった。その事を思い出した山崎は、ふと思ったことを口にしたのだった。
そしてそれに付け加えるように、今度は近藤が感想を述べた。
近藤「…それにあいつはここに来る前、護り屋の仕事をしていたと聞く。恐らく、多人数を相手にする事も少なくなかったんだろうよ。」
総悟「・・・・・。」
二人の感想を聞いていた総悟は、何も言わずに、だが何かを考えるかのように、二人を見据えていた。