第14章 人の話は最後までちゃんと聞くこと。
葵咲がその場を動くことが出来ずに暫く佇んでいると、葵咲を呼ぶ声が聞こえてきた。
土方「市村ァァァァァ!!」
その声に葵咲は我に返ったように驚き、背筋を強張らせて振り返る。
土方「やっと見つけたぜ…。」
葵咲「・・・・土方さん!・・・・・。」
葵咲は走り寄る土方を見て、覚悟を決めたように目を瞑った。
土方「あんな申し出が通ると思ってんのか。」
葵咲「…やっぱり駄目、か。最期くらい…何かを護りたかったんだけどな…。」
そう言って寂しそうな笑顔で俯く葵咲を前に、土方は懐から葵咲の退職願を取り出し、目の前で破り捨てた。
葵咲「なっ!?なんで・・・・!!」
土方「・・・・・。お前の配置換えを行う。」
葵咲「配置…換え?」
土方の言っている言葉の意味が分からず、葵咲は戸惑った。
土方「お前はただの勘定方でも女中でもねぇ。真選組隊士だ。だから、先日の一件も咎められやしねぇ。」
葵咲「なっ、何言って…!!」
あまりの唐突な発言に、葵咲は驚きを隠せなかった。
ちょうどその時、近藤や他の隊士達もその場に駆けつけた。
近藤「葵咲ちゃァァァァァん!!」
葵咲「近藤さん!?皆も…。」
近藤「そ、そういう…ことだ…。ゼェ、ゼェ。何故話の途中でいなくなった…?上司の話は…最後まで…聞くもんだ。」
相当必死で駆け回っていたのだろう。近藤は息を整えるのに時間がかかった。
葵咲「貴方まで…!そんな事じゃ他の隊士に示しがつかないでしょう!!そんな事するの、やめてください。…処罰は甘んじて受けます。」
そう言って葵咲は苦しそうな表情を浮かべ、下を向く。