第114章 誰にでも優しいより自分だけに優しい方が特別感が増す。
だがそんな一郎兵衛に対して、日輪は女としての一意見を述べる。
日輪「アンタ、元ナンバーワンの割に女心が分かってないねぇ。女は優しい男が好きだけど、それは誰にでも優しい男じゃない。自分だけに優しい男が好きなんだよ。」
一郎「!」
勿論、日輪の意見も一概にそうであるとは言えない。好みは人それぞれだ。だが誰彼構わず優しさを見せている人間に対しては不安が募るもの。寄ってくる異性が後を絶えない。それに自分だけに優しさを見せて貰えると、自分だけ特別感を味わえて恋心も芽生えやすい事だろう。
そして続けて日輪から先程の一郎兵衛の態度はやりすぎだったと指摘された。それではチャラ男が出ていて真面目な女は引いていく、と。一郎兵衛は何とも言えない表情を浮かべた。
一郎「…やっべ。マズった。」
シュンとなる一郎兵衛。そんな彼に対し、日輪は首を横に振ってフォローを入れた。
日輪「ま、多分あの娘はアンタの事何とも思っちゃいないから大丈夫よ。」
葵咲の心が離れるも何も、そもそも近付いていない。だから幻滅される事もないだろうと日輪は言うが、それを聞いた一郎兵衛は更に苦い顔を浮かべる。
一郎「日輪サン、それ全然フォローになってねぇんだけど。」
日輪「ちょっと意地悪がすぎたかね。」
クスクスと笑う日輪に、一郎兵衛は再び優しい笑顔を向ける。そして日輪の顔を覗き込みながらウインクする。
一郎「けどま、アンタにも一緒に楽しんで欲しいってのも本音さ。」
日輪「!」
嘘や社交辞令ではない事は本人の表情を見ればわかる。日輪は再び頬を染めて目を丸くする。一郎兵衛の優しさに触れて心が温まる。日輪は微笑を浮かべて頭を下げた。
日輪「ありがとう。」