第114章 誰にでも優しいより自分だけに優しい方が特別感が増す。
顔を近付けられた事で余計に鼓動が高鳴る。
そして日輪は観念したように一郎兵衛へと笑顔を向けた。
日輪「じゃあお言葉に甘えて…お願いしようかね。」
一郎「フッ。任せな。」
二人のそんなやり取りを眺めていた新八は安心したように笑みを零す。そして葵咲も。一郎兵衛の男気と配慮に感謝するしかない。葵咲は幹事としてまだまだ配慮に欠けている部分があると反省した。
そうして日輪、一郎兵衛ペアが出発。館内を少し進み、外で待機している者達から見えなくなったぐらいのところで日輪がコッソリ一郎兵衛へと話し掛けた。
日輪「でも良かったのかい?アンタが本当に組みたかったのは私じゃなくて葵咲(あの娘)だろ?」
一郎「!」
日輪の鋭い指摘に思わず目を見開く一郎兵衛。
一郎兵衛は葵咲への想いを隠してはいないが、日輪にはそのような話をした事はない。一郎兵衛の気持ちを知っている月詠が他者に話すとも思えない。華月楼を出た後は吉原内で葵咲と接した事もなかった為、己の心の内を日輪に知られているとは思いもしなかった。恐らく今回の宴会で葵咲と接していた態度で気付いたのだろう。
その事に一郎兵衛は感心したような声を上げる。
一郎「流石は元ナンバーワンの遊女様。人を見る目は鈍ってねぇな。まぁ確かに、本音を言やぁ葵咲と組みたかったんだけど。葵咲の相手が上様じゃあ代わってもらうわけにもいかねぇし。となりゃ方向転換で俺がどれだけ良い男かってのを見せる方が良いと思ってな。嫉妬してくれりゃ尚更良いんだけど。」
押してもダメなら引いてみろ。その作戦を遂行してみたのだ。確かに一郎兵衛の着眼点は悪くない。