第114章 誰にでも優しいより自分だけに優しい方が特別感が増す。
肩を叩かれて振り返る新八。目を瞬かせながら一郎兵衛を見上げると、一郎兵衛はニッコリ笑顔を浮かべながら新八へと己のくじを差し出した。
一郎「新、俺と代わってくんねぇ?俺の相手、妙だから。」
新八「え?僕は良いですけど…。」
新八がシスコンである事を知っての単なる善意なのだろうか、それとも一郎兵衛が日輪と組みたいという事なのだろうか。新八は考えながら小首を傾げる。そんな新八を尻目に、承諾を得た事で一郎兵衛は頷いて日輪の傍へと歩み寄った。
一郎「よし。」
日輪「あ、ちょ…っ!」
日輪の承諾待たずに一郎兵衛は日輪をお姫様抱っこで抱え上げる。晴太が見てたらヤキモチを焼いてしまいそうな光景だ。ちなみに晴太は宴会の途中から夢の中。今も部屋でぐっすり眠っている事だろう。
抱え上げられた日輪は頬を染め、あっけに取られたように一郎兵衛をじっと見つめる。そんな日輪に優しい微笑を向けながら一郎兵衛が言葉を掛けた。
一郎「これなら階段あっても関係ねーだろ?」
日輪「でもこれじゃあアンタが…。」
疲れてしまうのではないだろうか。日輪は申し訳なさそうな顔を浮かべる。
だがそんな日輪の心配を一郎兵衛は笑い飛ばした。
一郎「俺がそんなに軟弱に見えんのか?これぐらいどーって事ねーよ。つーか軽すぎじゃね?ちゃんと飯食ってんのかよ?」
日輪「…っ。」
一郎「それに、元ナンバーワンの花魁様のお相手させてもらえるってんなら男冥利に尽きらァ。…それとも、俺が相手じゃあ不満かい?」
日輪「!」
今までの優しい微笑とは打って変わって不敵な笑みを浮かべる一郎兵衛。そんな表情の変化に日輪はドキリとする。日輪が口を噤んでいると、一郎兵衛はフッと笑って顎を上げた。そして日輪の顔をズイッと覗き込む。
一郎「俺も、こう見えても元はナンバーワン張ってたんだけど。」