第112章 裸の付き合いで歩み寄るのは心。
肝試し準備の為に、葵咲は他の女性達より一足先に脱衣所を出る。
少し足を進めたところにある休憩スペースで新八の姿を見付けた。
葵咲「あ、新八君。」
新八「葵咲さん。」
葵咲「休憩中?」
新八「はい。」
どうやら宴会もお開きになり、新八は休憩に入った様子だ。
お風呂上がりの葵咲。ホカホカと湯気をまとった水気のある雰囲気は色っぽさを増長させている。思春期特有の年上の女性に憧れる心情とでもいうのだろうか。今までまじまじと葵咲の事を見た事はなかった新八だが、こうして見ると大人の色気を感じる。
新八は葵咲の事を何気なく見上げていたが、その色気にドキっとしてバッと目を反らした。
(新八:急に目を反らして失礼だったかな。)
ふと我に返る新八。申し訳なさでもう一度葵咲の方へとチラリと目をやる。
新八「あれ?」
そこにいたはずの葵咲の姿がない。辺りに目を向けると、葵咲は近くの自販機でジュースを購入していた。そうだ、葵咲はド天然の女性。新八は自分のドキドキ等伝わっていないんだろうなと心の中で少しガッカリした気持ちになる。まぁ元より恋心等があるわけではないのだが。
ジュースを購入した葵咲は再び新八の傍へと歩み寄る。そして購入したジュースのうち一本を新八へと差し出した。
葵咲「はい。」
新八「え?でも…。」
葵咲「葵咲姉さんからの奢り。今日は仲居さん業、大変だったでしょ?しかもうちの接客だし。本当にお疲れ様、ありがとう。」
新八「あ、有難うございます。」
その気遣いが至極嬉しい。今までこんな気遣いを受けた事はなかったのではないだろうか。たかだか缶ジュース一本ではあるが、その気遣いと御礼の言葉だけで今日一日が報われた気がした。
(新八:やっぱり葵咲さんは大人だな。)
葵咲は新八の隣へと腰掛け、自分の持っている缶ジュースへと視線を落とす。そしてもじもじしながら言葉を押し出した。
葵咲「あの…新八君に訊きたい事があって。」
新八「何ですか?」
葵咲「こんな事、本人に訊いて良いのか分からないんだけど…。新八君って…その、お通ちゃんと…」
(新八:? 葵咲さん、何でそんな恥ずかしそうに…。)
頬を染めながら促される質問。その様子を見て最初は怪訝な顔を浮かべていた新八だったが、何かに気付いたようにハッとなった。