第111章 酒を酌み交わす事の意義。
見つめていると、一郎兵衛とバチッと目が合った。そして次の瞬間、一郎兵衛はバッとあからさまに視線を反らして顔を背ける。背けた顔は真っ赤っ赤だ。その態度で図星なんだと分かる。普段はモテ男として余裕を見せる彼の意外な一面。そんな姿を目の当たりにして、ちょっと可愛いと思った。
二人が談笑していると、葵咲の傍に妙と九兵衛が訪れて新たなお誘いが。
妙「葵咲ちゃん、私達一足先に一度温泉に行こうと思うんだけど、一緒にどう?」
葵咲「お妙さん。えっと…。」
温泉に一緒に行きたい気持ちは大いにある。だが今は本日の主役である松本と話している最中だ。中座して良いものかとチラリと松本の方へと目を向ける。そんな気遣いに気付いた松本は、クスっと笑って葵咲と妙達二人へと視線を送った。
松本「行って来て下さい。私は他の方々と飲んでいますので。」
葵咲「じゃあお言葉に甘えて。」
葵咲が立ち上がるのと同時ぐらいに、神楽が近くで泥酔していた月詠の腕を掴んで立ち上がらせる。
神楽「ホラ、ツッキーも温泉行って酔いを覚ますと良いネ。」
葵咲「それ大丈夫?酔いつぶれた状態で入らない方が良いんじゃ…。」
飲酒後の入浴は大変危険だと聞く。これだけの人数で入れば溺れる心配はないだろうが、ますます酔った状態になる上に、心臓等に負担を掛けたりもする。月詠の体調が心配だ。だがそんな心配をよそに、神楽はズルズルと月詠を引きずり、半ば強引に連れて行ってしまった。
まぁ何かあっても医者である松本もいる事だし、大丈夫か。そう思いながら葵咲も皆の後を追うように宴会場から出た。
女性陣が温泉へと足を運ぶ姿を見ていた怪しげな影が二つ…。二つの影は目を光らせ、静かに女性陣の後をつけていった。