第111章 酒を酌み交わす事の意義。
そよ姫達と写真撮影を終えた葵咲は、人混みから外れた場所に座ってフゥと息をつく。幹事の仕事も一区切りついての休憩だ。梅酒を飲みながら周りの楽しそうな騒ぎを眺めていた。
そんな葵咲に松本が声を掛ける。
松本「隣、良いですか?」
葵咲「短英さん。お疲れ様です。すみません、本日の主役なのに、本来なら私から行くべきところ…。」
松本「そんな気を遣わないで下さい。」
確かに葵咲の言う通り、本来なら主役である松本は上座に座っているべき。そんな彼に酒を注ぎに行かなければいけないのは葵咲の方である。
それをわざわざ主役自ら足を運んでくれた事に申し訳なく思う葵咲。だがそんな気遣いの出来る葵咲に嬉しく思いながらも、それは不要と松本は笑って見せた。
松本の優しい微笑に葵咲も自然と笑顔になる。そして周囲にも目を向けながら葵咲は松本へ問い掛けた。
葵咲「真選組には馴染めてきました?」
松本「ええ、お陰様で。華月楼にいた頃(あのころ)は、まさか自分が真選組の専属医になれるなんて思いもしてませんでしたね。本当に葵咲さんのお陰です。有難うございます。」
葵咲「むしろ巻き込んでしまって申し訳なかったような…。」
上品で落ち着きのある松本。そんな彼は真選組のタイプではないように思える。それをこんな烏合の衆の中に引き入れてしまって申し訳なさを感じたのである。
だがそんな葵咲の気遣いにまた、松本は笑いながら首を横に振るう。
松本「そんな事ないですよ。医者としての仕事が出来て本望です。それに、こんな大勢で宴会が出来る日が来るなんて想像もしてませんでしたから。本当に楽しいです。」
そう語る松本の表情は至って穏やか。温かな笑顔は嘘偽りなく真実を語っていると見て取れる。そんな表情を見て葵咲も嬉しく思った。
葵咲が静かに頷いていると、松本が葵咲へと質問を返す。
松本「葵咲さんも楽しんでいますか?」
葵咲「はい。私、こんな大宴会なんて初めてなので…。私も凄く楽しいです。」
葵咲の言葉にも嘘偽りはない。心からの本音である。今まで経験した事のない大宴会。しかも自分が幹事だっただけに、盛り上がりを見せてくれている宴会は嬉しい気持ちも大きかった。
そんな幸せそうな笑顔を浮かべる葵咲を見て、松本はフッと笑みを零しながら葵咲へとずいっと顔を近付ける。