第111章 酒を酌み交わす事の意義。
お登勢達の発言に続いて、長谷川が至極嬉しそうな表情で言葉を紡ぐ。
長谷川「一泊賄い付の仕事!これ程魅力的なものはねーだろ!」
確かに長谷川にとっては願ってもみない高待遇の仕事だ。そしてそれに続いてたまも発言する。
たま「私達もお手伝いさせて頂きます。」
新八「心強いです!!」
普段から接客業をこなし慣れている面々に、賃金の為に必死で働こうとする長谷川。これ程頼もしいものはない。希望の光が見えた事で新八の目からは自然と涙が零れ落ちていた。
新八が安堵の幸福を噛みしめていると、館内から酔っぱらった状態の山崎がビール瓶片手に出て来た。
山崎「おい!お客様が酒が足りねーって言ってんだよ、ああん?」
たま「お待たせして申し訳ありません。只今お持ち致します。」
返答するたまの姿を見て、固まったように呆然と立ち尽くす山崎。まさかこんなところで愛しのたまさんに会えるなんて!
山崎は手に持っていたビール瓶を落とし、瓶は地面に落ちた衝撃で砕け散る。一瞬で酔いが覚るどころか、血の気が引いた。山崎は偉そうな態度を改めて叫ぶ。
山崎「たたた、たまさんんんんん!?俺も手伝います!!な、中でお客様方が酒が欲しいと…。」
たま「了解しました。」
山崎はたまの横に並んで再び館内へ。するとそれと入れ違いに中からお岩が出て来た。
お岩「やっと来たね、お登勢。私はグズは嫌いなの知ってるだろ?遅いじゃないのさ。」
お登勢「こっちにも事情ってもんがあるんだよ。来てやっただけ感謝しな。」
お岩「フン、相変わらず口の減らない女だね。」
睨み合うように仁王立ちで向き合う二人だが、二人の空気に殺伐としたものは感じられない。むしろ旧知の戦友と再会したかのようなアツイ空気に満ち溢れていた。
そんな二人の様子を見て、新八も自然と微笑が浮かぶ。二人もフッと笑みを零し、お岩が館内を親指で指差し、中に入るよう促した。
お岩「じゃあこっちで支度しとくれ。新八(アンタ)は座敷の手伝いに戻りな。」
新八「はい!」