第108章 心霊スポットには身代わり人形が必須。
少し表情を落としていた女性だったが、ここで少し顔色が変わる。視線を上へと上げて先程の温かな色に戻して言葉を紡いだ。
「あの後、何度か華月楼に通って先生とお話しさせて頂いて。主人と向き合う勇気を頂きました。そして私の本当の気持ちや寂しさを主人に伝えたら…主人も私に向き合ってくれるようになったんです。それで…。」
女性は自らのお腹を摩る。とても温かく柔らかな表情を浮かべる姿を見て、葵咲も自然と顔が綻んだ。
葵咲「そうですか。良かった。」
葵咲が心から祝福しているのは、その表情を見れば分かった。女性は赤の他人である自分に対して、ましてや一度嫌がらせをした自分に対して祝福してくれる、そんな葵咲の人柄を垣間見る。女性は至極優しい笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「貴女のお陰でもあります。」
葵咲「私?」
「貴方が先生に光を与えて下さったから。だから先生から私にも光を分け与えてもらえたんだと思います。本当に有難う。」
葵咲「そんな…光を与えるだなんて…。」
そんな風に賞賛されたのは初めて。故にむずがゆいものがあり、葵咲は頬を染めて照れたように俯く。そんな葵咲の擦れていない人間性を見て女性はクスリと笑う。そして何かを思い出して葵咲の耳へコソッと耳打ちした。
「ああ、それから。私と松本先生とは身体の関係はありませんから。」
葵咲「えっ!?」
何故そんな事を突然?ここでそんな事を告げられるとは思ってもみなかった為、慌てたように女性から身体を離して目を見開く。女性は葵咲には構わず、顎に人差し指をあてながら空を仰ぐ。
「恐らくですけど。先生、華月楼では誰とも交わってないんじゃないかしら。」
葵咲「いや、あの…。」