第108章 心霊スポットには身代わり人形が必須。
どう返して良いのか分からない。そもそもそういう話題に慣れていない。葵咲は頭から湯気を出す勢いで顔を真っ赤にする。葵咲の初々しさを見た女性は少し驚いた表情を見せるも、すぐにまた先程の表情を取り戻してクスクスと笑みを漏らした。
「可愛らしい人ね。今となっては先生が貴方の事を気に掛けるのも分かるわ。」
葵咲「え?」
最後の言葉は葵咲に向けて放ったというよりは、独り言に近いもの。故に葵咲は聞き取れずに聞き返すが、女性が言い直す事はなかった。
そして女性は満足したような顔を浮かべてベンチから立ち上がる。
「ごめんなさいね、長く引き止めてしまって。」
葵咲「いえ、こちらこそ。貴重なお時間を有難うございました。もし何か困った事があったらいつでも言って下さい。私は屯所にいますので。」
「有難う。」
軽く会釈する女性に対し、葵咲もまた会釈を返す。そして公園から立ち去る背を見送りながら、葵咲はふと考え事をする。
あの女性は、本当は身体の繋がりを求めて華月楼へ赴いたのではなかったのではないか。無意識のうちで心の繋がりを確かめに華月楼へと赴いたのではないだろうかと。
もし本当に身体の繋がり(それ)が目的だったのなら、獅童を選んでいたのではないだろうか。松本なら自分に手を出さないと思ったから、彼を選んだのではないかと…。
それだけご主人の事を大切に思っていたのではないか、そんな考えが頭を過った。