第108章 心霊スポットには身代わり人形が必須。
二人は場所を移して近くの公園へ。
空いているベンチに腰掛ける。座って早々、女性は葵咲に深々と頭を下げた。
「あの時は助けて頂いて有難うござました。」
葵咲「いえ、私は別に。」
大した事はしていない。むしろ職業柄当然の行為だっただけに、そこまで深く感謝されると恐縮するものがある。葵咲が照れたように頬を掻いていると、女性は顔を上げて葵咲へと微笑み掛けた。
「それに、松本先生の事も。貴女が救い出して下さったんでしょう?」
葵咲「救い出した…と言えるのかどうか…。」
これには素直に頷けないものがある。確かに華月楼という廓の中から救い出したと言えばそうなのだが、その事で執行猶予付の犯罪者という烙印を押す事になってしまった。複雑な表情を浮かべる葵咲に、女性は首を横に振る。
「救い出してますよ。今の先生を見れば分かります。凄く楽しそうですもの。」
葵咲「そう言って頂けると少し救われます。」
複雑な笑顔を浮かべる葵咲だが、女性は心からそう思っている様子。温かな表情をしていた。なんだか照れ臭くなった葵咲は即座に話題を切り替える。
葵咲「あの後、ご結婚されたんですか?」
華月楼の事件から一年経っていない。となるとすぐに結婚して身籠ったという事だろうか。それか授かり婚か。
質問を投げた後に、踏み込んだ質問をしてしまっただろうかと少し心配する葵咲だったが、女性は気にしていない様子で律儀に答えてくれる。
「いえ。結婚は五年程前に。」
葵咲「そうなんですね。…えぇ!?そうなんですか!?」
うんうん、と頷く葵咲だったが、よくよく考えてみたら驚きの発言に思わず二度見。彼女の話が本当なら、既婚者の身でありながら華月楼へと通っていた事になる。今 恋人すらいない葵咲には考えられない感覚なだけに、どういう表情で話を聞けば良いのか分からず、あたふたしてしまう。
そんな葵咲の心情を読んだのか、女性はクスクスと笑いながら、でも少し寂しそうな表情を浮かべて補足の言葉を補った。