第107章 自分の為に頭を下げてくれる人には心惹かれるものがある。
屯所への帰り道。城を出てすぐに土方は葵咲へと怒号を浴びせた。
土方「何考えてんだお前ェェェェェ!!」
急な怒号にビクリとなる葵咲。思わずきゅっと目を瞑る。だがすぐにその目を開け、口を尖らせながら土方を見上げた。
葵咲「えーだって…。」
土方「だってもクソもねぇ!」
葵咲「でも…。」
土方「でもじゃねぇ!」
ムッ!理由すら話させえてもらえない事に頬を膨らませる葵咲。始めは穏やかに語ろうとしていた葵咲だったが、あまりの対応の酷さに葵咲は声を荒げて反論した。
葵咲「上様直々の勅命じゃん!」
土方「直々でも受けたらマズイ勅命だろーが!!」
ギリギリと睨み合う葵咲と土方。だがここで葵咲は表情を落とし、視線を地面に落として小さく息を漏らした。
葵咲「…きっと上様もお寂しいんだと思う。」
土方「あ?」
葵咲「ずっと お一人で城内に籠って国や民の事だけ考えて…それだけの人生なんて辛すぎるよ。」
土方「・・・・・。」
独りの辛さを知っている葵咲としては将軍の寂しさを共感する事が出来た。葵咲の幼少期について詳しくは知らない土方だが、以前寺子屋で浮いていた話を聞いた事がある。恐らくその頃の自分と重ね合わせたのだろうと、すぐに察しがついた。それだけに土方もこれ以上詰める事が出来ない。
葵咲「せめて一度ぐらい…友達、ではないけど、皆と和気あいあい楽しく過ごす旅行をご経験されても良いんじゃないかなって…。」
葵咲の願いを聞いた土方は、少し考え込むように目を瞑り、ガリガリと頭を掻きながら言葉を返した。