第106章 観光は親しい相手とするからこそ楽しめる。
一方その頃、萩の報告を終えて会議室から出た松本は、一人考え込みながら屯所内を歩いていた。
(松本:しかし…葵咲さんに投与された薬が気になりますね。緒方のあの口振りでは何もないもの、栄養剤とかの類でないのは明らかですし。何事も起こらなければ良いのですが…。)
考えても答えは出ない。分かってはいるが、考えずにはいられない。堂々巡りの思考に頭を抱えてため息をつく松本。そんな松本に一人の隊士が声を掛けた。
「松本先生!例の書類、届きましたよ。」
そういって書類の入ったA4封筒を差し出す隊士。身に覚えのない書類に松本は首をかしげる。
松本「例の書類?」
「ほら、この間依頼されてた手配書一式。」
松本「…ああ~!」
「先生って意外と忘れっぽいですよね。」
過去、葵咲の刺され傷の件も土方への報告を失念していた。そんな松本に、隊士は少し呆れ顔。だが普段完璧に見える松本が案外抜けているところもある事に、少し親近感が沸いた。
松本は自ら依頼した事を思い出して封筒を受け取る。
松本「有難うございます。」
「けど、ホント勉強熱心ですよね。攘夷志士の手配書見て顔と名前覚えたいだなんて。先生の立場なら名前頭に入ってるだけで充分だと思いますけど。」
松本「顔写真も頭に入れておかないと。名前だけではすれ違った時に分からないですからね。」
真選組の専属医となって以降、職業柄必要であると思った松本は攘夷志士の名前を一通り頭に叩き込んでいる。だが先日の葵咲達の尾行で身に染みたのだ。葵咲と待ち合わせる桂を見ても分からなかった。それでは意味がないと。そうして今回取り寄せたのが顔写真付きの指名手配書だ。
封筒から手配書を出して松本はパラパラとめくり始める。隊士も一緒に覗き込んだ。
だがここで、数枚めくった時、松本の手が止まる。
松本「ん…?」
「どうかしました?」
松本「この男は…!」
一枚の手配書を目にし、松本は大きく目を見開いた。