第106章 観光は親しい相手とするからこそ楽しめる。
土方は突然の大声にビクゥッ!と背中を震わせる。そして目の前で顔面蒼白になる葵咲を見て、その状況を何となく察した。
土方「え?まさかお前…っ。」
葵咲「・・・・ド忘れて…ました……。」
土方「えぇぇぇっ!?」
両手人差し指をツンツンと合わせながら、おずおずと状況を語る葵咲。聞けば現状全くの未着手だという。それを聞いた土方もまた青ざめる。
そんな土方をちらりと見上げながら、葵咲は言葉を押し出した。
葵咲「締切、いつですか?」
土方「上様が出来れば明日話してぇって言ってたみてぇだけど。」
葵咲「っ!!!!!」
葵咲は言葉を失うが、土方はそれ程焦ってもいない様子。先程一瞬青ざめはしたが、今はいつもどおりの顔色に戻っていた。土方は顎に手を当て、少し考えた後に葵咲へと質問を投げ掛けた。
土方「今からそれに徹しても間に合わねぇのか?」
葵咲「勘定方の仕事で今日しないといけない分があって…。仮に何とかそれを調整して差し引いたとしても、伺っていた大規模イベントの警備を考えるとなると…今日中は厳しいかと。何度かチェックもしないといけないと思いますし…。」
まず事前に動かせる人員のチェック・集計を行ない、それを抽出した上で体制を考えなければならない。イベントが行われるのが来週。提案の修正が入る事を考慮して逆算すると、最低でも明日には仕上げなければならない。
どう考えても無理だ。葵咲の言葉を聞いた土方は更に考え込むように腕を組む。
土方「・・・・・。」
唸る土方を前に、葵咲は意気消沈した様子で視線を床に落とした。
(葵咲:この間の件、やっぱりお咎め無しは虫のいい話だったんだ。土方さんは許してくれても神様は許してくれない。打首獄門は逃れられない宿命…。どう足掻いても、ここで罰を受け入れなきゃいけないって事…か。)
覚悟を決めた葵咲は、きゅっと深く目を瞑り、再び目を開ける。そして土方へと真剣な眼差しを向けた後、深々と頭を下げた。