第106章 観光は親しい相手とするからこそ楽しめる。
土方「おい、葵咲。」
葵咲「にゃーーーーァァァァァっ!!」
土方「うぉぉぉぉっ!!」
今まで聞いた事もないような雄叫びを上げる葵咲。その声に土方も驚く。心臓をバクバクさせながら葵咲は振り向いた。
葵咲「ひ、土方さん・・・・っ。」
土方の顔を見るや否や、ポッと頬を染める葵咲。まさか土方の事をあれこれ考えていた矢先に声を掛けられるとは思ってもいなかった為、その状況に赤面する。ただただ顔を赤らめて言葉を詰まらせる葵咲を前に、土方は目を瞬かせた。
土方「…え?なっ、なんだよ?」
葵咲「えっ!?あ、いや!なんでもないです…!」
土方「?」
葵咲「それより!何かご用件でしょうかっ!」
これ以上追及されては困る。そう思った葵咲は慌てて話題を切り替えるように本題を促す。かなり不自然な状態な葵咲に対し、土方は少し怪訝な顔を浮かべながらも、本題へと入った。
土方「ああ。例の案件の進捗はどうだ?」
葵咲「例の案件?」
はて?例の案件とは何ぞや。頭の片隅にすらない文言に葵咲は首を傾げる。そんな葵咲の様子を見て土方は案件について詳細を付け加えた。
土方「上様から依頼のあった件だ。イベントの警備体制案を出してくれって言われてたろ。どうだ?」
上様から依頼のあった件とは。
そよ姫の身代わりとして囮となり、田中古兵衛に誘拐された先の事件(雪月花第40訓~47訓参照)。あの時の警備体制を提案したのは、実は葵咲だった。それが評価された事により、後日開催予定の将軍様のイベントの警備体制も提案して欲しいと、将軍様より直々に依頼があったのだ。
ちなみに今回行なわれる予定のイベントとは、将軍様が市民達と触れ合う公の場を設ける、といったもの。イメージとしてはアイドルの握手会のような感じだ。直に民衆の声を聞きたいという将軍様の希望から立案された企画だった。
そんなイベントの警備体制提案依頼。それがあったのは葵咲が萩に行くより数日前の事。暫く思考停止するように固まる葵咲だったが、すぐさま記憶を結びつけて大声を上げた。
葵咲「・・・・・。あああぁぁぁぁぁっ!!」