第105章 備えあれば憂いなし。
じれったい意味深なその発言に、松本も少し苛立ちを見せる。松本は眉根を寄せて緒方を睨んだ。
松本「何なんです?」
緒方「口で説明するのは難しいんだ。」
松本「・・・・・。」
緒方の様子を窺う限り、嘘は吐いていないようだ。故に尚更次に掛けるべき質問が難しい。松本が考え込みながらも、じっと緒方の顔を見つめていると、緒方が再びフッと笑みを漏らして言葉を紡いだ。
緒方「君も彼女の事が気になるかい?君も医者…いや研究者の気質として当然と言えば当然だよね。」
松本「今質問しているのはこちらです。話を逸らさないで下さい。」
松本の方が今の立場は上であるはずなのに、それを感じさせない緒方の態度。それは部屋の外から様子を窺っている見廻組面々にも感じ取れた。
だが緒方はここで、これ以上からかっては自らの立場が悪くなると感じたのか、観念したように視線を落とし、笑みを浮かべながら言葉を続ける。
緒方「ククク。そんなに睨まなくても。彼女の身体に害を及ぼすものじゃあないよ。心配には及ばない。僕も彼女の事は大事にしたいと思っているのでね。彼女を護る為の投薬、とだけ言っておこうか。」
松本「?」
これも嘘ではない様子。だがそれを行なう意図が読めない。松本が怪訝な顔を浮かべていると、緒方は言葉を続ける。だがそれは先程の話の続きというわけではなかった。
緒方「彼女からは目を離さない方が良いよ。遅かれ早かれ、彼女はいずれ台風の目になる。」
松本「どういう意味です?」
緒方「さぁ。僕は預言者ではないからね、どう転ぶか、どうなるかは分からない。けれど、何かが起こるのは明白だという事。」
穏やかに紡がれるその言葉は、その雰囲気とは裏腹に決して良い意味合いが含まれているとは思えない。松本が言葉を詰まらせていると、緒方はニコニコしながら松本を見据えた。