第104章 第百四訓 「真剣勝負にドーピングは邪道。」
佐々木「市村さん。」
葵咲「あ、佐々木局長。今回の件、お疲れ様でした。」
佐々木「休暇中のご協力、感謝します。」
長谷川「俺への労いの言葉はァァァァァ!?」
葵咲へのみ会釈する佐々木。そんな彼の目に長谷川の姿は写っていない。いや、見てみぬフリをしているという方が正しいかもしれない。下手に言葉を掛ければタクシー弁償代をせびられそうだ。
ちなみに余談になるが、実は山崎が最後に長谷川にアクセルを踏ませたのは責任から逃れる為だ。最後に選択したのは長谷川の意思であると。
案外ちゃっかりしている警察関係者に、涙を呑むのは長谷川一人。ここで長谷川は最終手段とも言える言葉を二人に投げる。
長谷川「おい!聞いてんのか!弱者ナメんなよ!俺がΦ(クウシュウゴウ)になんぞォォォォォ!お前らの名前には数字含まれてっからな!市(一)と三で殺るからな!」
葵咲「それは駄目ですよ。だって長谷川さんは十五分後に生まれても長谷川さんですもの。」
長谷川「ツッコむところソコォォォォォ!?」
“Φ(クウシュウゴウ)”とは、ドラマ“天国と地獄”の殺人鬼の象徴である。
Φは名前に数字の付く、この世の悪といえる人物を殺していた。それをなぞったらしい。
だがそんな魂の叫びをも適当に返し、葵咲は佐々木へと向き直る。
葵咲「まぁ休暇の目的は果たせていたので。事件収束に助力出来て良かったです。」
そう、今回の葵咲の旅の目的は松陽の墓参り。一番の目的は既に達成していた。何も心残りはない。
そんな晴れやかな笑顔を浮かべる葵咲の顔を佐々木はじっと見つめる。そして少し考えた後、押し出すように言葉を放った。