第104章 第百四訓 「真剣勝負にドーピングは邪道。」
工場内には警察関係者が続々と入り、捜査を開始している。
葵咲は一旦桂達とは離れ、銀時達の姿を探した。銀時は近藤と一緒に救護班の応急処置を受けていた。その場に神楽と信女も加わる様子を見て、葵咲はほっと胸を撫でおろす。
葵咲もその輪に加わろうと近付くが、近くで煙草をふかしながら一人佇む長谷川の姿を見付け、先にそちらに駆け寄る事にした。
葵咲「長谷川さん!大丈夫でした?」
長谷川「…タクシー、弁償出来ねぇならクビだとよ…。」
そう言った長谷川の目からは涙がポロリ。葵咲には目もくれず、工場を眺めながら呟く長谷川。
葵咲はそんな長谷川を見て、普段通りの変わらぬ表情で言葉を返した。
葵咲「そうですか、大変ですね。」
長谷川「他人事ォォォォォ!?軽すぎじゃね!?オメーらに巻き込まれてこうなったんだけど!!」
先程の哀愁漂う涙は一瞬で吹っ飛ぶ。想定外の葵咲の返しに、長谷川は思わず顔を向けてクレーム付きで盛大にツッコんだ。だが葵咲は少しも悪びれる様子なく、うんうんと頷きながら真剣な眼差しを向ける。
葵咲「お気持ち分かります。私も巻き込まれた側の人間ですから。休暇の半分仕事に持ってかれちゃいまして。お互いツイてないですよね。」
長谷川「度合いが全然違うだろーが!こっちは職失ってんだよ!!」
天秤に掛けられるような事案じゃない。その事を声を大にして意見するが、やはり葵咲は変わらぬ笑顔のまま。
そういえば葵咲は当初タクシー代も銀時達と一緒に踏み倒そうとしていたっけ。案外ちゃっかりしているところがある。これは確信犯ではないだろうか。
そんな事を頭で考えながら次なる抗議の言葉を考えていると、その場へ佐々木が歩み寄って来た。