第103章 世界は広い。
三人が苦戦しているすぐ傍で、松本が目を凝らして緒方を解析しようとする。
(松本:山崎達(彼ら)が塔を破壊すれば、この男の動きも変わるだろうか…。)
三人の攻撃の隙を見て、緒方は右手のかぎ爪から爪を飛ばした。狙いは松本。だがその事にいち早く気付いた葵咲は、爪に刃先を当てて軌道を変えた。爪は松本の手前に落ちて床に突き刺さる。
松本「!」
葵咲「大丈夫ですか!?」
松本「葵咲さん、有難うございます!」
葵咲「短英さんはもう少し下がっていて下さい!」
松本「分かりました。」
二人のやりとりを横目に見ながら緒方は再び松本へと語り掛ける。どうやら他の異形種達とは違い、自我を保っているようだ。
緒方「松本君。君はこれを人外な力と言うけど、果たして本当にそうかな?この研究が上手くいけば、それこそ人の生活を豊かに出来るんだ。一人では持てない荷物も軽々と運べるようになり、己の身も護れるようになる。そしていずれは空も飛べるようになるだろう。…君は知らないだろうが、この世にはまだ周知されていない“素晴らしい血”が存在するんだよ。我々がまだ見ぬ地へ到達出来る日が来るのも、そう遠くはない。それの何が悪い?君のそれと何が違う?」
その言葉に松本はまたもや嫌悪感を抱いた。ギリリと歯噛みしながら大きな声で反論を示す。
松本「同じにしないで下さい。私の薬は人という枠組の中にある。貴方の研究は人という概念から大きく外れ、尊厳をも失ってしまっているんです!」
緒方「やれやれ。君とは分かり合えると思ったんだけどなぁ。残念だよ。」
緒方は首を横に振るい、再び葵咲達へと向き直った。