第101章 大切なモノは己の手で護り抜け。
松本「ええ。“緒方滞庵”で間違いありませんでした。ですが…。」
桂「? どうした?」
先程の真剣な眼差しとは打って変わって表情を暗くし、視線を地面へと落とす松本。言い淀みながらも言葉を押し出した。
松本「変わっていなかったんです。」
土方「?」
松本「歳を取っていなかったんですよ。」
土方「!」
松本の言葉を聞いて驚きを隠せず目を見開く土方。佐々木達は先に松本から話を聞いていたのか、驚く様子もなく、頷くだけで口は挟まない。
言葉を失う土方を前に、松本が袖の下で腕組みしながら言葉を続けた。
松本「私が前に彼を見たのは、かれこれ十年近く前の話です。恐らく彼は今、四十代半ば以上の年齢だと思いますが…。どう見ても三十代の風貌だったんです。」
土方「何かやべぇ事に手ぇ出してるって事か。」
松本「本人に訊いてみなければ分からないですけどね。」
松本達は緒方を見たといっても少し遠めに見ただけ。中には老けずに若さを保っている人間もいる。手術や薬による若返りかどうかは本人に訊かなければ分からない状況だ。
さて、これからどうするか。ひとまず緒方を探す為にもここにいるメンバーで工場内への潜入を試みるか。これからについて話そうとしたところに、この場へと駆け付ける人物の影を佐々木が捉えた。
佐々木「ん?信女さん。どうかしましたか?貴女が血相を変えるなんて珍しい。」
新八「え?変わってる?いつもと同じ表情に見えるんですけど。」
新八達には信女の表情の変化が分からなかった。信女とは背中を預け合える間柄の佐々木だからこそ分かるのかもしれない。
まぁそれはさておき。信女は葵咲が連れ去られた事で、異形種達の攻撃を交わして一度退散してきたのだった。駆け寄って来た信女は息を整えながら状況を報告する。