第101章 大切なモノは己の手で護り抜け。
今の自分の名前が知られているだけでなく旧姓まで。その事に背筋を冷たくする葵咲。青ざめる葵咲を前に、緒方は不気味な笑みを浮かべる。それは茶屋前で遭遇した時のような穏やかな微笑ではなかった。
緒方の発言を聞き、少女は何かを思い出したように『あっ』と小さく声を漏らす。
「市村…。私も貴女の事、知ってる。天人と組んでた、腹黒一族…。」
葵咲「!?」
信女「・・・・・。」
駄々洩れとも言えるべき情報漏えい具合に、葵咲はどんどん青ざめる。少女の発言に葵咲は言葉を詰まらせた。
だが少女は別に葵咲を追い詰めたいわけではないらしい。葵咲が血の気をなくしても変わらず無表情のまま。じっと葵咲を見据えたまま続けた。
「腹黒は、別に良い。何故、貴女は天人を拒む?“全左衛門(ぜんざえもん)”は、天人を受け入れていた。」
葵咲「!・・・・あの男と…あんな男と私を一緒にしないで。」
少女の発言で一つの仮説に辿り着く葵咲。だが今はそれを思案している余裕はない。顔色を取り戻した葵咲はキッと少女を睨み返し、再び応戦の構えを取った。
「全左衛門とは違う思考…。なら、排除する、のみ。」
葵咲・信女「!」
来る…!どんな攻撃が来ても対処出来るよう視野を広げて。背中を預け合いながら構える葵咲と信女。
だが少女が動くよりも先に、緒方がスッと左手を挙げて少女の行動を制した。
緒方「待って、紗羅君。彼女は丁重に。」
紗羅「・・・・・。」
立場は緒方の方が上なのか、“紗羅”と呼ばれた少女は素直にコクリと頷き、右手をパチンと鳴らす。
葵咲・信女「!?」
次の瞬間、単なる廊下だと思われていた この場の壁が開き、中から無数の見た事のない異形の化物が現れる。
葵咲「えええええぇぇぇぇぇ!?何これ何これ何これェェェェェ!!妖怪!?物怪!?怪物事変!?」
信女「それ、全部同じよ。“怪物事変”、ジャンプSQにて大好評連載中。アニメ化もしたわよ。」
葵咲「ってなんで怪物事変の宣伝してんの!?」
至って冷静にツッコミと番宣を入れる信女に、葵咲はツッコミを重ねた。話を戻して現場。その場に現れたのは、またもや異形の怪物達。巨大な者から小柄な者まで、その形態は様々だ。