第2章 個人情報を守れれるのは己のみ。
葵咲のアパートを出て、歩き出した土方だったが、葵咲は行き先を教えては貰えない。仕方なく土方の三歩後ろを歩いていると、土方が葵咲に話しかけてきた。
土方「…おい。何でついてくんだよ。」
葵咲「今日一日護ってって言ったの貴方でしょ?」
葵咲としては、今日一日かけて身体で払うと約束してしまった手前、ついていくより他にない。
土方「いや頼んでねぇし。いいから金置いてどっか逝け。」
葵咲「酷いっ!!」
流石の天然素材も、今の『逝け』のニュアンスは汲み取れたようだ。
こんなところを隊士の誰かに目撃でもされたら何を言われるか分かったもんじゃない。休日に女を連れて歩いているだけでも何か言われそうなのに、ましてや沖田ミツバに似た女。あらぬ噂を立てられ、噂に振り回されるのだけはごめんだと土方は思っていた。いかにしてこの女を引き離すか、などと考えていたその時、葵咲が突然声を上げた。
葵咲「…あぁっ!!」
土方「な、なんだよ急に大声だして…」
あまりに突然の大声に、しかも心の準備をしていなかっただけに、土方は飛び上がる勢いで驚いた。
葵咲「大事な事忘れてました!!」
土方はこの女の事だからガスの元栓閉め忘れたとか、家賃を振り込んだ際に通帳をそのままATMに忘れてきたとか、そんな事だろうか、等と想像し、葵咲の次の発言を待った。
葵咲「名前!名前なんて言うんですか?」
またしても土方の予想は大ハズレ。この女相手に予想が的中することを期待してはいなかったが、あまりのハズレ具合に土方は肩を落とし、ため息をついた。
土方「…なんだよ、そんなことかよ。どうだっていいだろ。」
土方は煙草に火を点け、再び歩き出す。
葵咲「どうでもよくなんかないでしょう、呼ぶ時困ります。」
そう言って葵咲は難しい顔つきで腕組みをし、考え出した。足を止めた葵咲に釣られて、また足を止めた土方は呆れ顔で葵咲の顔を見た。
葵咲「じゃあマヨさんでいいですか?」
先程の土方スペシャルを思い出した葵咲は、なんという素晴らしい思いつきだと言わんばかりのどや顔で提案したが、即却下された。
土方「やめろ。…土方だ。土方十四郎。」
これ以上意地を張って名を明かさずにいても無駄な労力を使うだけだと悟った土方は、自分の名を名乗った。それに、土方には一つ思惑があったのだ。