第1章 自分のそっくりさんは世の中に三人はいる。
当初葵咲の部屋に上がるつもりのなかった土方だったが、遠目でも分かる程の名刀を手に取って見たいと思い、部屋へ上がった。
土方「へぇ。なかなかいい刀じゃねぇか。」
重さ、刃の艶、柄の持ちやすさ等、思っていた以上に優れていた刀に土方は感嘆の声を漏らした。そして…
土方「よこせ。」
葵咲「ええっ!?」
突然の交渉、というよりむしろ強奪に近い発言には葵咲も驚きを隠せない。
土方「使わねぇなら宝の持ち腐れだろ?今日の悪行についてはこの刀で許して…」
葵咲「ダメーーー!絶対ダメ!!」
突然大声で叫んだ葵咲。今度は土方の方が驚きを隠せない。吃驚して刀を落としそうだった程だ。
土方「な、なんだよ。謀反でもたくらんでるつもりか?」
葵咲「違いますよ。」
その発言の後、葵咲の表情に影が差した。そして少しの間話すのを躊躇った為か、沈黙が落ちたが、やがて口を開いた。
葵咲「…それ、大切だった人から貰ったものなんです。」
土方「大切だった…?」
言葉の言い回しに疑問を感じた土方は、葵咲に問い返した。問われた葵咲の表情は先程にも増して暗くなる。
葵咲「…今はもういませんから。」
土方「!!…悪ィ。」
問い返さずとも、少し考えれば分かる言葉の意味合いに、わざわざ問い返し、悲しい出来事を思い出させてしまった事を土方は申し訳なく思った。その大切な人は、どんな人で、どれくらい前の出来事だったのかは分からない。だが大切な人を失う苦しみは、土方にも痛い程よく分かる。その傷を抉るような発言をしてしまった事を悔いた。その土方の心情を察したかのように、慌てて葵咲は言葉を取り繕った。
葵咲「私は大丈夫ですから、謝らないで下さい。むしろ私こそすみません、こんな話しちゃって…。」
その葵咲の態度に、ほんの少しだが土方の葵咲に対する印象が上がった。土方は少し口の端を上げ、頷くことで意思を表した。
葵咲「じゃ、行きますか!」
勢いよく玄関の扉を開けた葵咲に、土方はすかさずツッコむ。
土方「ちょ!何処行くんだよ!!」
問われて初めて、土方の今日の予定、行き先、目的等を確認しなければならない事に気付いた葵咲。
葵咲「あ。何処行くんですか?」
土方「・・・・・。」
やっぱりさっき印象値上げたの取り消しィィィ!そう心の中で叫んだ土方だった。