第100章 頼りになるのは全集中の呼吸。
- 葵咲サイド -
土方の腕の中から脱出した葵咲は顔を真っ赤にしながら猛ダッシュを続けていた。
(葵咲:あ~~~も~~~!どうしちゃったのかな私!!なんであんなドキドキしたの!?土方さんの顔、まともに見れなかった。まだ腕の中の温もりが残って…。)
そこまで頭の中で論争を繰り広げたところで、先程の事を思い出し、またもや『ボッ!』と更に顔を赤らめる。
葵咲(い、いかんいかん!今は捜査中!集中!集中!全集中!)
走りながら頭をブンブン振る葵咲。私情を一度封じて捜査に専念しようとする。葵咲が足を止めたその時、近くの茂みでガサッという音が鳴った。音を聞いてビクリと背筋を凍らせる葵咲。葵咲は恐る恐る音がした方へと足を向け、そっと茂みを掻き分けて覗き見た。
信女「…うっ。」
葵咲「信女さん!?大丈夫ですか!?」
外壁を登っていたはずの信女が何故ここに?そんな疑問を抱きながらも、葵咲は慌てて信女へと駆け寄る。見たところ大きな外傷はなさそうだが、頭を打っている可能性がある。信女の身体は極力動かさないようにしてペチペチと軽く頬を叩き、声を掛けた。呼び掛けられた事で信女は目を覚ます。頭を抱えながら起き上がった。
信女「大丈夫、上から落とされただけ。」
葵咲「えぇっ!?落とされた!?怪我は??」
信女「ない。」
葵咲「良かった…。」
まぁ状況としては良くはないのだが、怪我はなく、意識もはっきりしている様子の信女に、葵咲はひとまず ほっと胸を撫でおろす。
葵咲の手を借りながら、信女はゆっくりと立ち上がった。そして二人は再び工場を見上げる。
葵咲「という事は、屋上からの侵入は無理って事か。何処か別の場所から入れないか、探してみましょう。」
葵咲からの提案に信女はコクリと頷いた。二人は工場へと歩み寄り、何処か入口になるような場所がないかを隈なく探す。すると中に事務室でもあるのか、小さな小窓のある場所を見付けた。
葵咲「信女さん、あそこ!あの小窓から入れないかな?」
肩より少し上ぐらいの高さにある小窓に手を掛け足を掛け、二人は支え合いながら何とか内部へと侵入した。