第97章 スイートルームはエリートの為の部屋。
松本「あの、その緒方という人は男性ですか?」
葵咲「え?あ、はい。」
まさかそんな質問を投げ掛けられるとは思っていなかった葵咲。その為 少し反応に遅れてしまうも、しっかりと質問を受けて答えた。松本はその回答を聞き、更に掘り下げるように質問を被せる。
松本「どんな人でした?」
葵咲「えーっと…眼鏡を掛けていて気品のある物腰柔らかそうな人でしたよ。ニコニコしていて、渋い着物を着た貫禄のある感じの人です。髪は私より少し長めかな?左でまとめていて、白髪交じりの…灰色でした。」
緒方の風貌を思い出そうと、葵咲はこめかみに指をあて、記憶を手繰りながら話す。年齢は自分達より少し上ぐらい、という事も話そうか迷ったが、貫禄のある風貌がその見解を邪魔して葵咲の口を噤ませてしまう。情報を聞いた佐々木も、何かを思い出したように顔を上げて話に加わった。
佐々木「その人物の話は調査の過程で耳にしましたね。確かこの近辺では評判の良い医者のようですが。」
松本「医者・・・・。」
佐々木からの情報も得て、松本は更に考え込むように俯く。少し重い表情を浮かべる松本に、葵咲は心配そうな眼差しを向けた。
葵咲「短英さん?」
佐々木「知り合いに緒方という方が?」
心当たりがあるように思える松本の素振りに、佐々木は腕組みしながら問い質す。考えるように俯いていた松本だが、佐々木からの質問に顔を上げ、佐々木へと視線を合わせた。
松本「知り合いという程ではありません。直接お話しした事は無いに等しいですから。ただ、医学会に“緒方滞庵(おがたたいあん)”という人がいるので…。緒方という苗字は少なくはないですし、行われていた会合等で見掛けたのは江戸でしたからね。」
松本と緒方との接点は医学会の会合等。言葉を交わしたと言っても挨拶程度だそうだ。確かにそれなら直接話した、とは言い難い。だが今の松本の話には意味あり気なものを感じる。単なる同業であれば、ここまで重い表情を浮かべるだろうか。そう思った葵咲は緒方という男が気になった。