第97章 スイートルームはエリートの為の部屋。
佐々木「明日、天狗村の調査にあたるつもりなんですよ。万が一、天狗村に重要な証拠品等があった場合、今工場に入られた事で今回の捜査が露見し、それを片付けられたらこれまでの調査が水の泡になってしまいます。それで一度引き留めさせて頂いたというわけですよ。」
ここまで話を聞いてようやく佐々木達の目的や行動が繋がった。見廻組も警察。闇の忖度があるわけでもなければ、単なる出世、私欲の為に動いているわけでもなさそうだ。土方達は同業として少し佐々木の姿勢を見直した。
佐々木の話によれば、今回の捜査はあくまで調査段階。見廻組でも一部の人間しか知らされていない案件との事。その為、秘密裏に調査を進めるべく佐々木と信女の二人でこの地に訪れたそうだ。
見廻組の事情が明らかになったところで、松本が更に詳しい説明を求める。
松本「工場をお調べしているとの事ですが、何を作っている工場なのか、そのあたりの調査はもうお済みですか?」
松本から質問を受けた佐々木は、ここにきて初めて表情の色を変える。眉根を寄せ、右手を顎に当てながら唸るように言葉を押し出した。
佐々木「現段階の調査で分かっているのは、作っているのが“薬品”という事だけです。ですが悪い噂は一切なく、人々の生活の足しになるような薬を作っている、と。この町と近隣の町や村の人間、誰に訊いても口を揃えて高評価なのです。気味が悪いぐらいに。」
「!」
土方「…確かにそりゃ解せねぇな。ある程度の人数に話を聞きゃ、何人かは否定する奴がいるはずだ。」
新八「あれだけ大きな工場なら尚更そうですよね。」
注目を浴びるモノ、評価の高いものは一定の悪評もまとわりつくもの。レビューの星印等を見てもそうだ。星5評価の多いものにも星1~4の評価は必ずある。星5だけというのは逆に怪しい。
それに土地開発等の話が持ち上がった際にはよくある話だが、“景観が損なわれる”、“産業廃棄物の問題”等で反対する人間が必ず一人はいるはず。それが全くいないというのは不自然な話だ。
佐々木の話を聞いて皆が唸っていると、葵咲が何かを思い出したようにパッと顔を上げた。
葵咲「あ!そういえば。」
土方「なんだ?何かあったのか?」
工場に対する評価を葵咲の方でも耳にしたのだろうか。土方の問い掛けに、他のメンバーも葵咲へと目を向ける。