第97章 スイートルームはエリートの為の部屋。
メルアド交換が無事終了し、佐々木は皆に向き直って本題を切り出す。
佐々木「さて。単刀直入に言いましょう。我々は秘密裏にあの工場と、付近の町や村の調査にあたっています。」
「!」
意外な切り出しに、その場にいた誰もが目を丸くする。てっきり見廻組は違法薬物黙認の立場なのだと思っていた。一般人や、警察関係者でも末端の方にはおおよそ関わりのない、上層部独自の闇がうごめいているものだと。だが、そうではないらしい。
土方達の驚きの表情を目にしても佐々木は眉一つ動かさずに話を続ける。
佐々木「幕府が承認していない品が製造・取引されているとの情報が入りましてね。その工場がこちらにあると聞いて調査に来た次第です。」
なるほど。幕府も性根から腐っていたわけではなかったようだ。怪しいモノを黙認するつもりはないらしい。
まぁよくよく考えてみれば、先程土方と近藤の頭に過った考え、『こちらの動きが読まれていた』というのは的外れの見解なのである。
そもそも土方達は工場調査でこの地へと訪れたわけではない。葵咲達の尾行でたまたま訪れたにすぎない。この宿に辿り着いたのも葵咲達が宿泊していたからだ。
たまたま萩へと訪れ、たまたま工場へと赴き、しかもたまたま宿泊する事になった宿に佐々木達も泊まっていただけなのだ。その確率は、たまたま生まれた双子が、たまたま二人ともオカマでたまたまいらずだった、位の天文学的たまたま率である。
そして佐々木は続ける。
佐々木「当初の目的は工場の調査だけでしたが、こちらに来て天狗村の人間が工場に働きに出たまま帰って来ないとの情報を得まして。天狗村も何かしら関与しているとみて、付近の町や村も調べる事にしました。」
ここまで口を挟まずに大人しく佐々木の話を聞いていた近藤だが、何かに気付いたように声を上げた。
近藤「じゃあ別に俺達がさっき工場に潜入しても良かったんじゃねーのか?」
工場に乗り込もうとしていた近藤達を止めたのは信女。そのまま調査に入っても良かったのではないだろうか。手柄云々の問題なのだろうかと、近藤の言葉を聞いた土方が眉根を寄せて佐々木を睨む。
だが佐々木はそんな視線を無視して頭を振った。