第96章 神は乗り越えられる試練しか与えなくても、人は与えてくる。
松本「私の知る限りでは、あれはまだ大量生産には至っていないはず。こんな大きな工場で作る段階では…。」
近藤「だが華月楼には結構な量があったぞ?」
華月楼では広めの一室を借りて保管する程の量。決して少なくはない。だがそれに対して松本は至って冷静な表情で近藤へと言葉を返した。
松本「あれが上限ぐらいです。裁判でもお話ししたとおり、あの薬はまだ治験段階です。華月楼に訪れる客に投与し、結果のデータを集めている段階でしたから。」
土方「薬が完成したって事か?」
松本「仮にあの後すぐに完成したのだとしても、今の時点でこんなに大きな工場を建てるのは難しいのではないでしょうか。」
土方「…確かにそうだな。」
色々と矛盾が生じる。となると、ここは忘却薬の製造とは無関係の場所なのだろうか。
一同が唸っていると、銀時が言葉を挟んだ。
銀時「いずれにせよ、あの段ボール箱と同じモンがここにあるんだ。関与してるのは宇宙海賊“鐡”(同じ組織)なんじゃねぇか?」
近藤「…そうだな。調べてみるか。」
確かに銀時の言うとおりだ。扱っているモノが違っているにせよ、扱ってる組織は同じ可能性が極めて高い。しかも忘却薬の症状が出ていた少年がいる。鐵が関与している事は ほぼ間違いない。銀時の意見に納得した近藤が頷き、工場の調査を促した事で、一同は工場の建物を見上げる。
内部への侵入を試みる為、足を動かそうとしたその時、背後から声を掛けられた。
「待ちなさい。」
「!?」
全く気配を感じ取れなかった。背中を取られた事に皆の背筋に嫌な汗がつたう。その場にいる誰もが慌てて振り返ると、そこには見知った顔が。
近藤「お前は…!」
見廻組副長、今井信女が腰に携えた刀に手を掛けて立っていた。皆が息を飲んで構えると、信女が静かに口を開いた。
信女「行かせない。そこから先には…行かせない。」
「!?」