第96章 神は乗り越えられる試練しか与えなくても、人は与えてくる。
そして次の瞬間、あろうことか松本は少年の腹を思いっきり殴った。
ドゴォォォッ!!
葵咲「えぇっ!?ちょ、短英さんんんん!?」
突然の所業に再び葵咲は慌てふためく。今まで散々目が虚ろだった少年も、その衝撃と痛みに目を見開いた。
松本「飲まされた物を今すぐ吐き出しなさい!!」
少年「ガハッ!」
松本「もう少しです!頑張って下さい!神は乗り越えられる試練しか与えませんから!!」
なおも殴り続ける松本に、今度は近藤と銀時がツッコミを入れる。
近藤「神っていうか先生が試練与えてるだけなんだけどォォォォォ!?」
銀時「つーか“仁”!?またもや医者ものォ!?どんだけ医者もんのドラマ熟知してんだよ!!」
以前も白い巨塔にドクターX、無痛と医者のドラマネタをぶっこんで来た松本。ここでもまた医者のドラマをネタに掲げる松本に、銀時は思わずツッコんでしまう。
松本の治療(という名の暴力)の甲斐あってか、少年が嘔吐し、飲まされたであろう物を吐き出した。
少年「ゲホッ、ゴホッ…。うぅっ…。あれ?僕…。」
むせ返していた少年だったが、どうやら意識を取り戻したようだ。少しぼーっとしてはいるものの、正常な瞳に戻った少年を見て松本は安堵のため息をもらした。
松本「良かった…何とか間に合ったみたいですね。」
ここまで慌てふためく松本を見たのは初めて。そしてここにあったと言われる華月楼に置いていた段ボールと同じ箱…それらの結び付く物は一つしかなかった。
葵咲「まさか…!」
松本「えぇ。お察しのとおり、虚ろな症状、記憶の混濁…。“忘却薬”の症状が出始めていました。…華音はこの薬の事を“リフレイン”と呼んでいましたが。」
銀時「おい、さっき言ってた段ボールって…!じゃあまさかここがあの薬の工場か…!?」
忘却薬の製造工場なのだろうか。まさかその調査で土方達はこの地へと訪れたのか?そう問い掛ける前に、松本が深く目を瞑りながら首を横に振った。