第96章 神は乗り越えられる試練しか与えなくても、人は与えてくる。
土方達は葵咲達の後を追い掛ける。そうして到着したのは勿論、最近建設されたという噂の工場。到着後、葵咲達は暗闇へと消えてしまい、その姿を見失ってしまう。
土方達はタクシーを降り、工場の入口まで歩を進めて辺りを見回した。
近藤「なんだ?ここは。異様な雰囲気しねぇか?」
土方「・・・・・。」
日没後の工場。本日の生産過程が終了しているのかもしれないが、それにしても人気(ひとけ)が一切なく、薄暗いその一帯は異様な雰囲気を帯びている。土方も自然と神妙な面持ちになった。
こちらも歴戦の侍の勘とでもいうのだろうか。土方も近藤の言うように異様な雰囲気を感じ取り、この場が思っていた以上に危険な場所であると判断した。
土方「…おいガキども、やっぱりお前らは先に帰ってろ。」
突然の帰還命令に新八は目を瞬かせる。驚きの表情を浮かべながら、土方へと言葉を返した。
新八「え?でも見失った三人を探すには人手が必要じゃ…。」
神楽「そうネ!私達を差し置いて美味しいモン食べようとするなんてズルイアル!」
土方「こんな薄暗ぇ工場の何処に美味そうな食べ物があるってんだよ。マヨネーズのマの字も見当たらねぇだろうが。」
新八「マヨネーズ工場だったら僕ら帰ります。」
土方「おい!!」
“美味しいもの”=“マヨネーズ”が結び付く土方であるが、新八も神楽もその意見には全く賛同出来ない。しらけた目を浮かべながら返す新八達に、土方は猛抗議の姿勢だ。
だがここで、近藤が何かを見付けて目を見開く。そして和やかな(?)空気を戒めるかのように、再び真剣な顔つきで言葉を発した。
近藤「新八君、冗談抜きでここは帰った方が良い。」
新八「え?」
まさか近藤からもそんな言葉が出てくるとは。新八は再び驚きながら近藤へと目を向ける。だが近藤は新八には目を向けず、自らが見付けた“何か”の元へと歩を進める。そしてその“何か”に手をつきながら、今度は土方へと言葉を掛けた。
近藤「トシ、この段ボール箱に見覚えないか?」
土方「!! それは…!!」
近藤の指し示す物を目にした土方は、咥えていた煙草をポロリと地に落としてしまった。