第95章 恋のキューピッドは大半が自己満足。
そんな銀時の心情には気付いていないのか、葵咲は手元の抹茶に視線を落としながら穏やかな笑顔で続けた。
葵咲「こうして二人とお墓参りに来れて良かった。松ちゃんの…松陽先生の事、本当に大切に想ってくれて、有難う。」
葵咲の礼は紅葉デートの件ではなく、今回の郷帰り旅行そのものの事。いや、松陽の墓を建ててくれていて、墓参りに誘ってくれた事だった。攘夷戦争で亡くした伯父。自分にとって大事な身内を大切に扱ってくれていた事に感謝してもしきれなかった。
だがそんな葵咲の言葉を聞き、銀時の表情は陰りを灯す。銀時は葵咲から視線を逸らし、自分の手元を見つめる。
銀時「・・・・・。」
葵咲「? 銀ちゃん?」
いつもと違う雰囲気の銀時に気付いて言葉を掛ける葵咲。何か気に障る事を言ってしまっただろうか。そう思った葵咲は、心配そうに銀時の顔を覗き込む。銀時はそんな葵咲の視線に気付きながらも、少しの間 沈黙を落とし、やがて静かに言葉を紡いだ。
銀時「・・・・あのさ、葵咲。俺…お前に…言わなきゃなんねぇ事がある。」
葵咲「ん?なに?」
いつになく真剣な様子の銀時。冗談めいた話ではない事が分かった為、葵咲は静かに銀時の言葉に耳を傾けた。だが銀時は眉をひそめ、口を噤んでしまう。葵咲は小首を傾げながらも銀時の言葉を待つ。
やがて銀時は視線を泳がせながら次の言葉を喉の奥から押し出した。
銀時「…俺さ…。俺、が・・・・。」
銀時が何かを言い出そうとしたその時、深刻な顔を浮かべる女性が駆けている姿が視界に飛び込んでくる。
女性は辺りをきょろきょろと見回しながら慌てたように小走りでこちらの方に向かってきていた。そんな女性を見た二人は怪訝な表情を浮かべて顔を見合わせた。
銀時・葵咲「?」