第95章 恋のキューピッドは大半が自己満足。
と、ここで銀時は何かを思い出したように顔を上げて桂の方を見やった。
銀時「あ。そういやお前、宿着いたら話があるみたいな事言ってなかったっけ?」
桂「・・・・・。」
銀時の言葉に、一瞬瞳を大きく見開く桂。だがすぐにいつもの表情へと戻した。
そして窓の外へと向けていた目を、太股の上で組んでいた自らの手元へと落とし、眉根を寄せる。桂は少し躊躇いながらも言葉を押し出した。
桂「銀時…お前には詫びても詫びきれぬ事がある…。」
いつになく深刻な面持ちの桂。こんな桂は珍しい。銀時も真剣な表情になり、桂の次の言葉を待つ。
桂「あいつの…葵咲の背中を押してしまった…。」
銀時「? なんだよ、勿体ぶってねーでさっさと言えよ。」
少しじれったくなってきた。銀時から急かされた桂はキュッと目を瞑る。そして椅子からくずおれ、銀時の前で手を突いて頭を垂れた。
桂「お前の初恋を汚さぬと言った矢先のこの所業…!どうか許してくれ!!」
銀時「何の話だァァァァァァァ!!」
詳細は分かり兼ねたが、思っていたような深刻な話ではない事は明らか。銀時は全力でツッコんだ。銀時のツッコミを無視して桂は苦渋の表情のまま続ける。
桂「先日の密会で気付いた事がある。あの時の葵咲の様子…あれは恋する乙女の瞳だった。俺を密会に誘ったのは、恐らく好きな男が出来た事を俺に相談しようとしていたのではないだろうか。」
銀時「ここにきて何周も遅れてスゲー勘違いしてる奴出てきたよ!!」
まさかの続・惚れ薬編。衝撃の勘違いに銀時は叫ぶしかない。
今までも何かとワンテンポ遅れがちの桂。クリスマスの回(コミック第33巻290訓~)では、ずっと外でスタンバっていたらしい事実も発覚している。しかもそれが露見した年賀状の回(コミック第34巻294訓)では式場の外でもスタンバっていた。
どこかズレたところのある桂なら納得といえば納得だ。
だがここで銀時のツッコミは無視して桂は立ち上がり、袖の下で腕を組みながら突如、あの歌を口ずさみ始める。