第95章 恋のキューピッドは大半が自己満足。
部屋に入った銀時達はひとまず荷物を置く。そして桂は広縁に置かれている椅子へと腰掛け、窓の外を眺めながら言った。
桂「幼馴染三人でこうして旅するのも悪くないものだな。」
銀時「そうだな。」
そこは素直に頷けた。銀時の顔は自然と綻ぶ。三人で旅行するのはこれが初めてだが、妙に居心地が良い。変な遠慮も無ければ、気遣いも無い。気兼ねなく一緒にいられる関係。柄にもなく、“この時間がずっと続けば良いのに”なんて言葉が頭を過ぎった。
それは桂も同じだったのか、銀時が何か言葉を発する前に少し哀愁帯びた瞳で言葉を紡いだ。
桂「俺達は…あと何度こうして時を共にする事が出来るだろうな。」
銀時「ヅラ…お前…。」
今回桂が三人での旅行に拘った理由が分かった気がした。葵咲の為だ何だと言っていた桂だが、これが本音なのだろう。あとどれぐらい共に時を過ごせるのか分からない…。
“いつでも行ける”、“いつでも会える”、ついそう考えてしまいがちだが、それが叶わなくなる日は突然訪れる。
“あの時ああしていれば良かった”、“もっと言葉を交わしていれば良かった”、“惜しみなく時間を作っていれば良かった”、そんな後悔を幾度と無く聞いてきた。思い立ったが吉日とはよく言ったものだ。今日出来る事は今日行なう。決して後悔しないように…。銀時は桂の言葉をしみじみと受け取る。
桂「俺達もいつまでもこうして一緒にいられるわけじゃない。特に葵咲はそうだろう。相手が誰であれ、葵咲が真選組の誰かの伴侶になろうものなら、攘夷志士である俺達とこんな旅行もままならないだろう。」
銀時「いや、それはあいつが隊士の時点で十分アウトだと思うけど。つーか何で俺も攘夷志士にカウントされてんの。一緒にしないでくんない。」
しみじみしていた気持ちが一気に吹っ飛んだ。ツッコミどころ満載の桂の台詞に、銀時は思わず真顔でツッコんでしまう。だが桂はそんな銀時の言葉に反論するでも、はぐらかすでもなく、真面目に受け答えする。
桂「相手が真選組じゃなくてもだ。所帯を持てば、いくら幼馴染と言えど男と旅行になど行けはしまい。」
銀時「まぁ…そうだな。」
桂のその言葉には反論の余地はなかった。銀時も素直に頷く。