第93章 世間は狭い。
無事に墓参りを終えた葵咲達は長谷川の待つタクシーへと戻る。長谷川はタクシーの横に立ち、煙草を吸いながら周りの景色を眺めていた。そんな長谷川の姿を見付けて葵咲が声を掛ける。
葵咲「すみません、お待たせしました。」
長谷川「おう。良いって事よ。その為の一日フリーチケットだろ?」
結局、タクシー代についてはフリーチケットを購入した葵咲達。この地での移動手段があまりない為、長谷川の勧めで購入する事にしたのだ。これなら一日どれだけ乗っても上限を越える事はない。しかも専属のハイヤーのように待ってもらう事も出来る為、それが最善だと判断されたのだ。
そうして再びタクシーへと乗り込む一行。ここで浮かんだ疑問を長谷川が口に出す。
長谷川「けど、やけに早かったな。墓参りは済ませられたのか?」
葵咲「はい。思ってたよりも綺麗だったので。」
長谷川「そうか。」
墓参りは掃除も含めると小一時間は掛かると予測していた。だが三人は三十分程度で戻ってきた事に疑問を感じたのだ。松陽の墓が見付からずに帰って来たのかと心配したのだが、そうではなかったと知り、長谷川は微笑を浮かべて頷いた。
長谷川「これからどうする?」
葵咲「どうしよっか。宿に向かうにはちょっと早い気がするよね。」
後部座席の二人に話しかける葵咲。だが二人もこれといって行先を思い浮かばない。三人が唸っていると、何かを思いついた長谷川が提案を施す。
長谷川「その松下村塾ってのはこの近くだったんだろ?折角だし、行ってみたらどうだ?」
三人「!」