第93章 世間は狭い。
葵咲がそう思いながら半ば諦めたように小さく溜息を吐いたその時、一羽の蝶がヒラヒラと葵咲の顔の前を舞った。葵咲はその蝶に惹き付けられるように視線を送る。そして誘われるように蝶の舞う先へと視線を合わせると、その先にあった墓に何か感じるものがあった。葵咲はそれに呼ばれるように歩き出す。
銀時「あ、おい、葵咲!」
突如、別方向へと歩き出した葵咲に声を掛ける銀時。葵咲は銀時の声には反応せず歩き続ける。そうして進んだ先の墓石の前で立ち止まった。
葵咲「銀ちゃん!太郎ちゃん!あった!」
銀時・桂「!」
葵咲に呼ばれて銀時と桂もそちらへ歩み寄る。葵咲の指し示す墓石を見て、二人は目を丸くした。
銀時「やけに綺麗だな。」
草が生い茂っていると思われていた墓。だが雑草はほとんどなく、至って綺麗に掃除もされている様子だ。墓に添えられている仏花を見て葵咲も言葉を紡ぐ。
葵咲「お花も割と新しいみたい。」
桂「誰か来たのか?供え物もあるな。」
葵咲「!」
桂の言葉で目を向けると、そこには金平糖が供えられていた。カラフルで色とりどりの金平糖。それを見た葵咲は一瞬瞳を見開くも、すぐさま落ち着いた表情を取り戻す。だがそれは少し哀愁漂う、寂しそうな視線だった。
葵咲「・・・・・。」
そんな葵咲の表情には気付かず、銀時が腰に両手を当てて気合を入れたように号令を出す。
銀時「とりあえず一応掃除するか。」
三人は少し生えていた雑草を抜き、石を磨き。そうして墓参りを終えた。