第93章 世間は狭い。
場面は葵咲達へと切り替わる。
助手席へと座った葵咲に、運転手が話し掛けた。
「何処までで?」
葵咲「天狗村の近くにある墓地まで…。ってあれ?もしかして長谷川さん?」
聞き覚えのある声の運転手に、葵咲は思わず目を向けた。するとそれは見知った顔、マダオこと長谷川泰三だった。
声を掛けられて長谷川も葵咲へと視線を合わせる。葵咲を見た長谷川は、パッと顔を明るくした。
長谷川「え?葵咲ちゃん!?スゲー偶然!なんでこんなところに?」
葵咲「私達はお墓参りに。」
長谷川「私達?」
そういえば何故助手席に。本来タクシーは後部座席へと座るもの。それを助手席に座ったという事は、少なくとも後ろに二人は座っているという事だ。長谷川がバックミラーで後ろを覗き見ると、そこには鼻をほじっている銀時と、腕組みしながら前を見据えている桂の姿が。長谷川はバックミラーを二度見した後、思わず振り返る。
長谷川「んげェェェェェ!銀さんにヅラっち!?なんでこんなところにィィィィィ!?」
銀時「それはこっちの台詞。」
当然の返しといえば当然の返しだ。銀時達は墓参りに訪れただけだが、長谷川は江戸から離れた遠い地でしっかり仕事をしている。そしてその疑問は葵咲も同じくだった。長谷川は再び前へ向き直り、車を発進させながらその質問に答えた。
長谷川「俺は江戸でタクシー会社に就職したんだけどよ、こっちの人手が足りねぇってんで転勤になったんだ。」
銀時「それ窓際じゃね?」
長谷川「ちょっとォ!?いきなりその物言いは酷いんじゃないの!?」
銀時「だってさ、明らか人手足りてんだろ。むしろタクシーなんて必要とされてねーじゃん。人がいないんだもの。」
長谷川「萩(ここ)の人達に謝れェェェェェ!!」
※ 実際の萩市の話ではありません。雪月花の物語上の設定ですので、ご了承下さい。