第93章 世間は狭い。
葵咲達がタクシーへと乗り込んだのを見届け、土方達もタクシーに乗り込む。ファミリーカータイプのタクシーは停まっていなかった為、当然の事ながら六人同じ車には乗り込めず二手に分かれる事に。
先に土方・松本・山崎の三人が乗り込み、後続車に近藤・新八・神楽の三人が乗り込んだ。前の車両は山崎が助手席、後部座席奥に土方、助手席後ろに松本が。後続車は助手席に神楽、運転手後ろに新八、その隣に近藤が座った。席に着いたと同時に土方が警察手帳を見せながら運転手に話し掛ける。
土方「前のタクシーを追ってくれ。気付かれねーように距離を開けて、だ。」
警察手帳を見た運転手は目を丸くする。こんな穏やかな地でそんな物を拝める日が来るなんて思いもしていなかった為だ。『何か事件ですか?』そう尋ねたい気持ちが膨らんだが、初めて目の当たりにする真選組という組織の人間に尋ねる勇気はなく、運転手はその言葉を飲み込んでしまう。だが気になる気持ちは抑えきれず、隣に座った山崎の顔をチラリと横目で見た。運転手の心配とは裏腹に、山崎の表情は至って平穏。そんなに緊迫した状況ではなさそうだと思った運転手は、ひとまずホッと胸を撫で下ろした。
そして葵咲達の乗ったタクシーを眺めながら、山崎が言葉を漏らす。
山崎「タクシーが沢山あって助かりましたね。」
松本「そうですね。萩(ここ)に到着した時はどうしたものかと思いましたが。」
初めて降り立つ萩という地。のどかな景色に松本は交通手段の不安を感じたのだ。だがタクシーが十台以上停まっているロータリーを見て その不安を拭ったらしい。そんな二人の会話に運転手が割って入る。
「お客さん方、運が良いですねぇ。タクシー増えたのはここ最近なんですよ。」
松本「そうなんですか?一体どうして。」
「ああ、それは・・・・」