第1章 自分のそっくりさんは世の中に三人はいる。
葵咲の住んでいるアパートは、六畳一間のお世辞にも綺麗とは言えない、木造のオンボロアパートだ。アパートは二階建てで、階段を上って一番突き当たりの部屋が葵咲の部屋である。土方は、衛生上という意味ではなく防犯面で、女の一人暮らしでこのアパートは如何なものだろうか、そんな風に思ったが、金銭事情にも関わることだ。他人の問題にとやかく突っ込むべきではないと思い、口を開くのをやめた。
『突っ込むべきではない』、それは単なる土方の自分に対する言い訳だったのかもしれない。土方は無意識のうちに、この沖田ミツバとそっくりな女とあまり関わりたくないと思っているのだ。勿論その事に当の本人は気付いていないが。
葵咲は玄関扉の鍵を開け、部屋に入った。土方もそれに続いて玄関に入ったが部屋には入らず、閉めた扉にもたれ掛かり、立っていた。
土方「おい。武器って何持ってくつもりだ?廃刀令を知らないわけじゃねぇだろ?」
この女が何の悪びれ、躊躇もなく刀を持ち出すようなら銃刀法違反で現行犯逮捕でもしてやろうか、土方はそんな風に考えた。そうすれば、手っ取り早くこの女との縁を断ち切ってしまえる、そう考えたのだ。だがそうは問屋が卸さない。それは天然を相手にする時の宿命である。
葵咲「…そういえば貴方は刀さしてるんですね。」
土方「俺はいいんだよ。」
葵咲「ジャイアニズム?」
土方「やかましいわァァァァァ!!!」
話があらぬ方向へ飛んでいきそうだ。
葵咲「でも…確かにそうですね、刀持って行っても取り締まられちゃいますし、小刀にします。昼間だし大丈夫でしょう。」
人生思い通りにはいかないものだな、そんな風に土方が思った時、土方の目に一つの刀が目に入った。広くはないこの一室にも床の間があり、その床の間に一本の刀が飾られていた。
土方「…あれはお前の刀か?」
葵咲は土方の視線の先に目をやり、床の間の刀を確認して答えた。
葵咲「ええ、まぁ。」