第90章 女の勘は結構当たる。
それから数日後。
惚れ薬の効力もすっかりなくなり、葵咲は普段通りの生活へと戻っていた。いつもどおり買い出しへと出掛け、偶然桂をデートに誘った場所を通りがかる。
(葵咲:なんで私、太郎ちゃんとデートなんてしたんだろう。何がどうカッコ良く見えたのかな。いや、まぁ確かに小さい頃は好きだったけど…。)
なんとも腑に落ちない自分の行動。不思議だと思いながらもそれを確かめる術はない。考え込みながら歩いていると、前から一郎兵衛が。
葵咲「あ、一郎君!」
一郎「あのさ、葵咲。」
葵咲「?」
前に立ちはだかる一郎兵衛は真剣な面持ちで葵咲と目を合わせられずにいる。少しの間沈黙を落とす。いつもと違うその様子に、葵咲が心配そうな顔を浮かべていると、一郎兵衛が言葉を振り絞る。
一郎「ごめん。その・・・・ごめん。」
葵咲「? 何が??」
一郎「・・・・・。」
何に対しての謝罪なのか分からない。葵咲がきょとん顔を浮かべていると、それを見た一郎兵衛は苦笑いを浮かべた。
(一郎:本当の事、話したら…流石に嫌われんだろうな…。・・・・嫌われる事がこんなに怖いなんてな。)
惚れ薬の一件について、話す事が躊躇われる。一郎兵衛は下唇をきゅっと噛んで更に俯いた。そんな一郎兵衛を見て葵咲は少し考えるも、そっと彼の頬に手を添えて微笑を浮かべた。
葵咲「…いいよ。」
一郎「え?」
葵咲「何があったのか分かんないけど、大丈夫だよ。ありがとう。」
一郎「っ!」
事情は分からない。だが一郎兵衛が酷く後悔している様子と、心から葵咲に謝罪を申し立てている気持ちは分かった。だから、聞かずに受け入れる事にした。その優しさがグッと胸に染み入る。一郎兵衛は顔を上げて葵咲を見据えた。
一郎「…葵咲。俺を見ててくれよ。」
葵咲「?」
一郎「俺のこと、見てて欲しい。これからの俺の事を。」
葵咲「うん。」