第90章 女の勘は結構当たる。
そうして葵咲の気持ちも落ち着いた頃には雨も止み、雲間から光が差し込んだ。銀時は傘を畳む。二人はどちらから声を掛けるでもなく歩き出し、帰路へ着いた。
葵咲「ごめんね、付き合わせちゃって。」
銀時「いや。」
葵咲「あーあ。初恋は叶わないってホントなんだね。しかも同じ人に二回もフラれるなんてさ。」
銀時「そうだな…。」
葵咲の話にぼーっと耳を傾けていた銀時だが、ここで気になるワードが。銀時は思わず葵咲の方を二度見して叫んだ。
銀時「…って初恋?…初恋ィィィ!?しかも二回ィィィィィ!!??」
葵咲「え?…あっ!内緒だよ。って言っても直接想いを告げてフラれたわけじゃないんだけどね。フラれ方も全く同じ。太郎ちゃんの好きな人の存在知って、ショック受けて…。学習能力ないなぁ、私。」
どうやら葵咲は無意識の発言だったらしい。まさかの初恋の相手が桂であった事のカミングアウト。その事に衝撃を受ける銀時は抜け殻のようだ。
別に今どうこう言う話ではない。単なる初恋の話。恐らく松下村塾に通っていた頃の話だろう。だがその頃の銀時は葵咲の事が好きだった。銀時の初恋は葵咲なのである。その事に複雑な心境を浮かべたのだ。
そんな抜け殻銀時に気付いていない葵咲は、温かい笑みを向けながら礼を述べる。
葵咲「ありがとう、銀ちゃん。ありがと。」
銀時「…いや、別に。」
なんとか言葉を押し出した銀時だったが、結果的に今回もまた貧乏くじを引いたのだった。